約 1,076,880 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2162.html
一章二節 ~ゼロは使い魔と相対す~ 漫然と身を任せるまま、ルイズの部屋に連れてこられたリキエルだったが、道すがら、 停止状態にあったその思考は回復の兆しを見せるようになっていた。少しずつ、身に起きた異常に心が向き始めたのである。 心身ともに整理のつききっていない状態ながら、リキエルはとりあえず事情に明るそうな人間、ルイズに話を聞くことにした。聞いて、まず困惑した。してから、当惑した。いくつかの質問を投げかけたが、返ってくる答えは要領を得ないものばかりで、混乱を助長するものでしかなかったのだ。 「メイジ? 召喚? 契約? 使い魔? 意味がわからないぞ。ここはどこだって?」 「あんた何、まさか魔法を知らないわけ? いったいどんな田舎から来たのかしら。着てるものも変だし、ついでに言えば髪型……っていうより髪の毛も変よね。ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ。田舎者っていっても、名前くらい聞いたことあるでしょ?」 呆然とした面持ちで――内心も同じ心持ちで――確認するような口調のリキエルに対し、ルイズはぞんざいな口ぶりで、滔々と言いたいことだけを言った。 「聞いたことがないからこーして訊いてるんだ。大体なんだ? 魔法ってよぉ。それに田舎だって? フロリダは有数の観光地だ。宇宙センターもあれば鼠と夢の国もある州だぜ、それなりに興業はうまくいっているし、総生産も七千億を超えてる。これは五年前のことだがな」 「ふーん、そう。五年前っていうと、わたしまだ十一歳だわ」 「じゃあお前は十六なのか。って、そんなことはどーだっていいんだ! というより、惚気の入り混じった面白くもない恋愛相談を聞くような、露骨にどーでもいいって顔をするんじゃあない!」 「今お前って言ったわね? 言葉には気をつけなさいよ、平民のくせに」 会話は、一向にかみ合う気配すらなかった。 「平民だって? またわけのわからないことを……。ともかく! どうやって連れてきたのかはこの際どうでもいい。お前達の目的も正体も知ったことじゃあない。オレをもと居た場所に帰してくれッ!」 ――ん? そうだ、オレはどうやってここに来たんだ? オレは事故って……。 愚痴っぽく言いながら、リキエルは同時に疑問を抱く。それは思考能力の復旧作業が、今しがたになって完了したからだった。そうなると、自身の現状をより深く考えることもできるようになる。しかしそれはリキエルにとって、決して喜ばしいことではなかった。 ――鏡……いや、鏡らしきものか。それが向かってきて、違う。向かってったのはオレだ。それで意識が、左手に奇妙な文字が、イギリスにあるようなやたらとでかい城が見えて、でかいといえば、あの月はなんだ? 大きさはともかく2つある理由は、ってそうじゃない。どうしてオレは……。 「言葉に気をつけなさいって言ったでしょ。還すなんて無理よ。もう契約しちゃったし、呼び出すことはできても、元に戻す魔法なんてきいたこともない……ってちょっと聞いてるの? 主人の話くらい聞きなさいよ!まったく、使い魔としての自覚に欠けてるんじゃないの? いい? 使い魔っていうのはね」 思考の渦にはまり込んだリキエルの耳には、ルイズのそんな声はほとんど入らず、ムスッとした顔も目に入らないようだった。 ――そうだ、ああそうだ。いやそうじゃない。なにがだ? なにが、オレは事故って、左手に激痛が……人が飛んで、魔法だと? あ? 魔法だ? わけがわからなく、わけ、あ、まずい。わからねえ。これ以上はやばい。これ、わけが、これ以上は、うう! やばい、まただァ! 息が荒れ、汗が噴き出す。 「主人の目となり耳となり、秘薬やその素材を見つけてきたり、主人の身を守ったりする存在なんだけど、どれもあんたには……あんた、ど、どうしたのいったい」 「やべえぜッ! 手から汗が、ビショビショだ。まぶたが下りてくる!」 リキエルが突然大量の汗をかきながら取り乱すのを見て、使い魔の役割について講釈していたルイズは狼狽する。 ――バイクで、左手が、月が2つ、魔法が、事故って、使い魔で、人が飛んでッ! 手に激痛、手、手が汗で、激痛、ふかないと! 目が、前が見えねえ! タオルは? ここはどこだ!? うおぁあまぶたが! 「い……息苦しいッ! 汗をふきたいッ! タオルはどこだッ!?」 「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! どうしたっていうのよ!?」 ――落ち着け? 落ち着け!? 落ち着けるわけがねえ! くそ、息苦しい! タオルはどこだ。ここはどこだ! 駄目だ、考えるんじゃあない! またいつもみたいに、また、また! ああくそ。苦しい! くるし、考え、息がッ! リキエルの意識の中には既に、ルイズの存在など影も形もない。それどころか、自分が正常な意識を保っていられるかどうかさえ、リキエルにはわからなくなってくる。 正気が保てない。そう思った瞬間リキエルは、首の後ろだけを無重力状態にされたような、嫌な浮遊感を伴う恐怖にさらされた。 「まぶたがッ! どんどんおりてくるんだぜッ! 見えねえッ!」 「なんなのよ……いったいなんなの!」 はいつくばり、ゲドゲドの恐怖面で滅茶苦茶に手探りをするリキエルを前にして、ルイズの方もパニックを起こしかける。 リキエルの思考は止まらない。 ――鏡が、事故って、バイトの、召喚、激痛、考えるな、激痛、正気が、正気が、使い魔、汗をふきたい、タオルは、また、考えるな! まぶた、息苦しく、前が見えねえ! 正気が、ちくしょおお! 「いつもだ! ストレスが重なるといつもこうなる。使い魔だって? オレにはなんの力もない! こんなオレに何ができるっていうんだ!? ちくしょう、ここにタオルはねーのか! 死ぬかもしれないッ!」 処理しきれずに断片的になり、乱雑に思い浮かぶ記憶の奔流に精神をかき乱され、リキエルは耐え切れずに悲鳴を上げた。 「え?」 メイジの存在すら知らない平民を使い魔にしなければならない理不尽と、その平民が目の前で何の前触れもなしに取り乱し、喚きだすという理不尽に苛まれ困惑し、小刻みに震え立ち尽くしているだけのルイズだったが、その平民の悲痛な叫びで、半強制的に意識をゆり戻された。 ルイズは考える。この男は自分の使い魔だ。平民であろうと人間であろうと、自分の召喚した使い魔だ。その使い魔が苦しんでいる。突然池のど真ん中に放り込まれた蟻のように苦しみ、もがいている。使い魔を見捨てるメイジがいるだろうか。そうすれば、自分の理想とする貴族の像はどうなる。自分の憧れ、姉達ならばどうするか。 「……」 改めて彼の様子をうかがってみると、その苦しみようがわかる。 目を覚ましたときから閉じられたままだった片目は気になっていたが、いまや両のまぶたが下がったまま痙攣している。汗はまさに滝が流れ落ちるようで、両手で押さえられた喉からはヒュウヒュウと、取入れ損なった空気がもれ出ていた。 「……」 厳しいが優秀な上の姉なら、こともなげにその冷静さで対処するだろう。病弱だが優しい下の姉なら、その優しさでもって献身するだろう。自分にはそれはない。ないが、できることがないわけではなかった。 「タオルは、タオルはねェーのか! くそ、正気が、息が……はっ! こ、れは」 むなしく空を掻くだけだったリキエルの手のひらに、ごわごわとした布の感触が触れる。 「お、落ち着きなさいってば! ほら、タオルよ。ゆっくり息を吸って、汗をふきなさい!」 「ヒック、ヒッ、クァ! はぁ―、はぁ―。あがが、はぁ―」 リキエルは渡されたタオルで一心不乱に両手をふく。タオルはよく汗を吸い、驚くことに、絞れるまでになった。 「はぁ―、はぁ―、がが、かっ、はぁ―、すまない」 尋常ではない量の汗が流れ、まぶたも上がっていないが、少しずつ息が整ってくる。なんとか話ができるようになったリキエルは、喘ぎながらも謝辞を述べた。 「ほ、本当よ、感謝しなさいよね。大体、しし、死ぬだなんて大げさなのよ。ちょっと、ちょっとだけびっくりしたじゃない。いったいなんなのよあんた」 プライドからか、動揺を隠すため、ルイズはかき集められるだけの威厳を声に乗せて、どもりながらもそう言った。なんなのよ、とは抽象的だったが、リキエルは、その言葉の意図するところを汲み取った。 「はぁ―はぁ―、クッ、はぁぁ――――」 最後にひとつ大きく息を吐き、もう一度「すまない」と言ってから、リキエルはポツポツと、自分の元いた場所とこの場所との差異、この場所に来るまでの経緯について語り始めた。 ◆ ◆ ◆ 「つまり、月がひとつで貴族もメイジもいない。あんたはそんな場所から来た?」 「Exactly(そのとおりだ)」 「……遠くから来たっていうのはなんとなくわかるけど、さすがに信じられないわ」 「オレだって同じだ。信じられるか、こんなファンタジックでメルヘンなことが」 ベッドに座り、リキエルの話に耳を傾けていたルイズだったが、その内容は彼女の価値観でいえば突飛すぎるもの、非現実的すぎるものだった。田舎者の無知な平民と考えていたが、自らの使い魔となったその平民は、ひょっとすると予想外に厄介な存在なのかも知れない。 先ほどのリキエルの取り乱しようから、少なくとも、彼のいた場所とトリステインには、その生活様式から常識に至るまでさまざまな差異があることはわかっていたが、その場所が異世界ともなると、話の段階が変わってくる。 ――もしかしたら……。 担がれているのかも知れない。あるいは、リキエルの精神が異常をきたしているとも考えられた。先ほどのリキエルの様子を見たあとでは、そんな可能性もないとは言い切れない。むしろそう考えた方が、より現実的とさえ思えルイズには思えた。 しかし、相変わらず片方のまぶたが下がったままで顔色もよくないとはいえ、今のリキエルの受け答えは健常者のそれだった。困惑しているようではあるが、混乱もしていなければ、特別おかしなところも見受けられない。 担がれるにしても、そんなことをする理由は初対面のリキエルには無く、第一あの苦しみようが演技ならば、トリステイン領内にある劇団のほとんどはお遊戯会もいいところだ。 ――って、お芝居を見たことはなかったわ。 答えも出ないまま思考が逸れる。思考が散漫になってきているらしかった。 結局のところ、リキエルの言うことを信用できるかといえば、やはりその内容が非現実的すぎるのである。 もし本当だとしても、どうするべきなのかルイズにはわからない。送り返すべきかもしれないが、自身が言ったようにその術を知らない。聞いたことすらない。だいたい、話の内容がどう考えても非現実的すぎる。 ――アレ? 気づけば、ルイズは堂々巡りの第一歩を踏み出していた。 ここまで考えたあたりで、ルイズは一度考えるのをやめた。リキエルそのものには気の毒という感情も湧くし、先ほどの様子を目の当たりにした以上、あまり無体な扱いをするのも気が引ける。それでもやはり平民のためにあれこれと悩むのはなんだか癪だったし、精神的にも肉体的にもなんだか疲れてしまっていた。 そんなルイズの悩みの種、一方のリキエルはというと、こちらもあれこれと考えている最中だ。 ルイズと話をする過程で、図らずも思考の整理がついたため、驚きこそすれ、先ほどのようにパニックを起こすことはなかった。なかったが、それでもこの事態にはついていけなかった。ただ漠然と、ここはどうやら異世界らしい、ということが理解できてしまっただけである。 輝く鏡に魔法に貴族。おまけに目の前の小娘の言を信じるなら、自分は召喚された使い魔らしい。普通ならば、新手の悪徳募金収集か? と耳も貸さないだろうが、実際に目の当たりにした諸々の出来事を鑑みれば、そう思うよりなかった。 理解を超える事象には無理やりに理屈をつけず、流されるままそれを受け容れるか、夢の中だと思う方が楽だ。一種の現実逃避だが、今のリキエルにそのことについて深く思考する気力はない。なるようになれである。 そういったこともあってか、リキエルは使い魔をやってもいいような気がしていた。捨て鉢な気持ちだが、それだけというわけでもない。 ――コイツに。 助けられた、とも思うのだ。偶発的なできごとであれ、分離帯に突っ込まずに済んだのは大きい。やけに高飛車な態度はあまり好かないが、先ほどパニックの発作を起こしたときに、自分を気遣ったことから――使い魔に対してはそれが当然なのかもしれないが――さほど性根の悪い人間でもないらしい。 それに、話を聞いた限りは元の世界に帰る方法は目下のところ不明で、その方法がわかるまではこの世界で生活することになる。当面は自分は養われる側で、他に選択肢が無い。 そして何よりの理由として、今は疲れているし、いろいろと考えすぎてまたパニックに陥りたくもなかった。 ハァ…… 黙考を続けていたルイズとリキエルは、ここ数時間のうちに増えた悩みを思い、同時に心の中で嘆息した。 「そういえば、あんたどうして片方のまぶたが下がってるの?」 「……ああ、まあ、気になるよなァ~」 ひと段落ついたところでルイズは、抱いていた疑問を投げかけた。 ルイズにしてみれば単純に疑問を口にしただけなのだが、リキエルにとってその質問は、トラウマのスイッチを入れるキーワードである。それなりに安定していたリキエルが、みるみるうちに沈む。 「最初は16の頃からだ……学年末の試験の会場だったよ。両方のよォー、まぶたがストーンと急に、俺の意志に関係なく落ちてきちまってよォー」 語りながら、リキエルの顔は少しづつ青ざめていった。額には早くも玉の汗が浮かび、呼吸も荒くなってきている。 「はッ! もしかしてやな予感。まま、まさか、また!? もういいわ。は、話したくないならもういいから!」 リキエルの様子に気づき、また先ほどのようにパニックを起こされてはたまらないと、ルイズは叫ぶようにして、あわてて彼の話を遮った。 「ハァ――、ハァ――」 リキエルは額に掌をあて、汗をぬぐいながら深く息をする。 未然にリキエルのパニックを阻止し、ルイズも安堵して冷や汗をぬぐう。やはり厄介な平民を使い魔にした、と思った。 ――使い魔といえば。 リキエルの呼吸が整ったころ、ルイズは使い魔の仕事についての話が途中だったことを思い出した。納得がいこうがいくまいが、この平民に使い魔をさせるしかなかった。ならば、その役割について教えておかなければならない。 そう思い、ルイズは口を開いた。 「で、改めて使い魔の仕事につい――」 「ちょっとルイズ、あなたさっきからぎゃーぎゃーうるさいわよ。隣付き合いはデリカシーを大切にしなくちゃあね。それにお子様はもうそろそろ寝るお時間じゃなぁい?」 と、そのとき唐突に部屋の扉が開き、ルイズよりいくつか年上と思しき女生徒が無遠慮に踏み入ってきた。ボリュームのある赤い髪と、情熱そのものを閉じ込めたような紅い瞳が褐色の肌に良く映える、ルイズとは違う種類の美人だ。ルイズが顔美人ならば、こちらは色気美人といった具合だろうか。プロポーションに至っては完全に対極である。 「だ、誰の体が、なんですって……? 誰の体型がお、おおお子様みたいですってええ!? 確かに聞いたわ! じゃなくてツェルプストー! なに勝手に入ってきてるのよ! 学院内で『アンロック』を使うのは禁止のはずでしょうが!」 「ご挨拶ね、あなたが心配だから見に来てあげたのよ? どうやら平民を使い魔にしたらしいじゃないの。落ち込んでるんじゃあないかってね」 「なっ! あん、た……い、いけ、いけしゃあしゃあぁ……ッ」 ルイズはいろいろと言いたそうだが、言いたいことがまとまらないのか、口元をわなわなと震わせているだけで声がでていない。頭に血が上ると、舌が回らなくなる性質らしい。 そんなルイズを捨て置いて、グンバツな女生徒はリキエルに視線を向けた。 「あなたお名前は? 私はキュルケっていうの。二つ名は『微熱』」 「オレはリキエル」 リキエルは唐突に入ってくるなりルイズと口論――食って掛かっていたのは主にルイズだったが――を始めた女に面食らっていたが、どうやら隣人であることがわかると、こういったこともさして珍しくはないのだろうと判断した。 キュルケはリキエルを値踏みするように上から下まで観察した後、ルイズに視線を戻し、挑発するような笑みを顔に浮かべた。 「本当に平民なのね。因みに私はサラマンダーだったわ、正真正銘、火竜山脈のね。好事家に見せたらまず値段なんてつかないでしょうね~」 「ぐ、だからなんだっていうのよ! そんなこと言いに来たんなら、さっさと自分の部屋に帰りなさいよ!」 サラマンダーを召喚したという言葉にルイズは一瞬たじろいだが、すぐに持ち直してキュルケ部屋から追い出そうとする。キュルケも長居するつもりはなかったらしく、「乱暴ね」などと言いながらも出て行くそぶりを見せた。 「そういえば、キスのお味はどうだったのかしら? まさかあれが初めてじゃあないわよね? まあどうでもいいけど。じゃ、おやすみなさいね~」 が、ただで出て行くつもりもなかったようで、非常に強力且つ、主にリキエルにとって危険な爆弾を放り投げていった。その爆弾は、理性によってなんとか抑えつけられていたルイズの怒りを、ものの見事に爆破した。 「ぬう~~~っ! ツェル、プス、トオオオォォオオオオ!」 言葉を発するもままならず、ルイズは獅子の咆哮もかくやそう叫ぶと、乱暴に服を脱ぎだし、これまた乱暴にネグリジェへと着替えだした。 なぜ脱ぎだす? だとか、繊維を傷めるんじゃあないのか? だとかをリキエルが考えている間に、ルイズは着替えを終え、呆けた顔のリキエルに小山ほどの量の何かを投げつけた。 「もうっ! 寝る! 疲れた! 洗濯!」 色々と抜け落ちた言葉で叫ぶと、それを最後にルイズは本当に寝てしまった。 使い魔の役割を話すことはおろか、リキエルを気遣うような思考も、とうの昔に白河の底である。いや、多少なりともそんな思考があったからこそ、そして疲労が溜まっていたために、リキエルは怒鳴られる程度で済んだのかもしれなかった。 これが普段のルイズであれば、リキエルが無事に次の朝を迎えることはなかっただろう。とりあえず鞭で十六連打された後、延髄蹴りに部屋から蹴り出されていたはずだ。 なぜルイズがそこまで激昂するのか? その理由は使い魔とメイジとの契約の儀、『コントラクト・サーヴァント』の方法にある。 その方法というのが――勿論リキエルの与り知るところではないが――口付け、有態にいえばキスなのである。 呼び出した使い魔が人間で平民で、さらにその平民にキスしなければならない。ルイズは初めそれに明確な拒絶を示し、再度の召喚を猛烈に望んだが許されず、結局リキエルにキスする破目になったのだ。 しかも実をいえば、それはルイズのファーストキスだったのである。うら若き乙女の初接吻ともなればその重要性は語るに及ばず、それを見ず知らずの馬の骨、もとい牛の皮に捧げざるを得なかったルイズの苦悩は、推して量って知れずとも知るべしである。 そして、あくまで使い魔との契約のためなのだから、あれはキスのうちにカウントしないはず、と半ば以上無理やりに納得し、忘却の向こう側へ押し込もうとしていたところにキュルケの爆弾である。たとえルイズでなくとも、堪忍袋の尾が切れることこれ必定也、である。 「気をつけた方がいいかもな、これは」 知らず知らずのうちに命拾いしたリキエルは、それでも本能的に危険を察知していたようで、ルイズはキュルケを敵視しているらしいということを心に刻んだ。ついでに、身体的なコンプレックスがあるらしいことも、備考として刻む。 それから渋い顔をして、先ほど投げつけられたものを拾い上げた。衣服の類と……下着にしか見えない白い布。これを洗えということらしい。どうやら、身の回りの世話や雑務全般を押し付けられたようだった。 「……まあいいか」 嘆息しながらも、リキエルは自分を納得させる。 高飛車で高圧的な態度は、生きた封建という制度と年相応のわがままで話が付く。洗濯は仕事と思えばどうということもない。何もできないと言ったのは自分だし、本当のことだ。これくらいのことは当然と思えばいい。恩云々を置いておくにしても、上下しか分からないこの世界では、薄く寝息をたてるこの少女に頼るしか、他にないのである。 「男にこういうのを洗わせるってのはどうかと思うがな。貴族ってのはそういう奴らってわけか?」 ルイズに言ったものか、そう皮肉気につぶやいたリキエルは、とりあえず寝床を探し始めた。今から洗濯をするほどの気力は残っていない。今日は寝て、明日の朝早く起きしてやればいいだろうと、リキエルは思ったのだが、 「あ……なんだ? 毛布の一枚もないぞッ! 床で、しかも布切れ一枚かぶらずに寝ろってことかよッ! これも貴族と平民の差ってやつなのか!?」 使い魔の仕事もやぶさかではないと思っていたが、それもやはり間違いだったかと、リキエルは身の不遇を嘆きながらも床に寝転がった。そうすると、まだ少し脳が興奮しているのか、取り留めのない考えが浮かんでは消えていく。 (冷たい床だな。石だからだろうな……お、体温で温まってきたなァ。冷てェ! 寝返りはまずかったか。自転車のサドルとかも、こんな感じで冷たいよなァ。朝方とかよォー。そういや、バイクはどうなったんだっけか。ま……いいか。乗っても、また事故るだけ、だろうさ。床は冷たいが、寒くは、ないな。秋か、春か、この世界にも、季節とか暦ってのは……あるんだろう、なァ) ふと、目じりのあたりに痺れるような感じがしたので、リキエルはまぶたを少し強く閉じた。すると、強い虚脱感が体を襲う。興奮の裏に潜んでいた抗いようもない睡魔が、リキエルの腕を掴み、引き込もうとしているらしかった。 リキエルはまた、漫然と身を任せた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1785.html
パーティは城のホールで行われた。明日の夜を迎えられない王党派の貴族達は園遊会のように着飾り、御馳走が所狭しと並べられたテーブル達の間に立ち並んでいる。 ジョセフ達は華やかで物悲しいパーティを会場の隅で眺めていた。 パーティの最初に行われた、若きウェールズ皇太子と年老いた国王ジェームス一世のスピーチは臣下を思う王の意気と、死をも恐れぬアルビオン王党派の誇りを改めて証明するものだった。 王は臣下に暇を出し、臣下達は誰一人としてヒマを受け取らず、死のみが待つ戦に赴くことを躊躇わない。 ただ立ち上がるだけでさえ足がよろめくほど年老いた王は、揺ぎ無い忠誠を誓う家臣達を見つめる目に涙を浮かべながら、アルビオン王国最後の宴の始まりを高らかに宣言した。 こんな滅亡寸前の王国にやってきた賓客が珍しいらしく、借物の正装に身を包んだルイズ達の元に貴族達は代わる代わるやってきては酒を料理を勧めてくる。 まだ宴が始まったばかりだというのに、酒が回っているかのように陽気で朗らかに振舞う貴族達は、明日死に赴く悲壮さを微塵たりとも感じさせない。 そんな彼らの誰もが最後に「アルビオン万歳!」と叫んで去っていく。 さしものジョセフもこの宴を馬鹿正直に楽しめるはずもない。だがそれでもジョセフは貴族達に愉快な冗談を返し、彼らの喧笑を巧みに引き出していた。 タバサは勧められた料理を次々と胃袋に収め、キュルケはあくまで宴の雰囲気を崩さぬよう、優雅と気品を漂わせて貴族達との会話に花を咲かせていた。 ギーシュもややぎこちなさを感じさせるとは言え、それでもなお懸命に明るい場に相応しい振る舞いをしようとしていた。が、結局耐え切れなくなったのか会場の隅に座り込んでいた。そんなギーシュを見つけたウェールズが彼に歩み寄ると、二人で何やら会話を始める。 ワルドは社交辞令を巧みに用い、どこに出しても恥ずかしくないパーティ向きの態度で貴族達と語らっていた。 しかしルイズは明る過ぎて物悲しいこの宴に耐え切れなくなったらしく、静かに首を横に振ると外に出て行ってしまった。 足早にこの場を去ろうとする主人の姿に、ジョセフは手に持っていたワイングラスをテーブルに置くと自分もホールを去ってルイズの後を追いかけた。 城中の人間がパーティ会場に集まっている今、城内はまるでホールとは別世界のように静けさと月明かりばかりが支配する広大な箱庭と化していた。 真っ暗な廊下を、ジョセフは波紋の灯りを集めた右腕をかざし、時ならぬ太陽光を頼りに歩く。誰の気配もない以上、特に波紋を隠す必要もない。 やがてホールの喧騒も届かない礼拝堂に辿り着くと、ルイズがそこにいた。 ステンドグラス越しに堂内を照らす月明かりの中、長椅子に座った少女は微かな嗚咽を漏らし続けていた。 始祖ブリミルの像へと続く長いすの間に敷き詰められた絨毯の上を歩いていくと、ほのかな波紋の光に気付いたルイズが後ろを振り向いた。 泣いていたことを何とか隠そうと目元を何度も拭うけれど、拭っても拭ってもルイズの両眼からは涙が止まることはない。 やがてジョセフがルイズの横に腰掛けてしまえば、ルイズはたまらなくなってジョセフの胸に顔を埋めて抱きついた。 ジョセフが来るまでも、ジョセフが来てからも、必死に泣くのを止めようとしていたが、堤防に押し留められていた水流が堤防を破るように感情があふれ出し、迸った。 子供……いや、赤ん坊のように縋り付いて泣きじゃくるルイズを、ジョセフは無言のまま両腕で頭を包み込んで抱き締めた。 パーティが続いている城内で、わざわざ礼拝堂に来るような奇特な人間はいない。ルイズはひたすらに泣き、流す涙も枯れた頃、充血した目でやっとジョセフを見上げた。 それでもしばらくはしゃくり上げる声にならない音が小さな唇から漏れ続けていたが、それも大分落ち着いてきた頃、ルイズは悲しげに言った。 「いやだわ……、あの人達……どうして、どうして死を選ぶの? 訳判んない。姫様が逃げてって言ってるのに……恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」 ジョセフはルイズを胸に抱いたまま答える。 「直接聞いた訳じゃないが、殿下は王族としての責任を果たすために死地に向かおうとしとる。生き延びるより壮絶に討ち死にしなきゃ守れないものもあるっつーこっちゃないんかの」 「……何よそれ、よくわかんないわ。愛する人より大事なものがこの世にあるって言うの?」 「あると言う事だろうな、少なくとも殿下にはな」 「わたし、説得する。もう一度説得してみるわ」 「多分ムリじゃろうな。ルイズでもなくてわしでもな」 「どうしてよ」 「レコンキスタのやり口からして、皇太子がトリステインに亡命なんかしたらレコンキスタがトリステインに攻め込む口実を与えることになる。んーまァそうでなくても、何か難癖つけて攻め込んでくるだろうがなッ。 大きな理由としてはそれが一番だろうが、わしはもう一つ理由があると思っている」 「……何よ」 「アンリエッタ王女がゲルマニアの皇帝と政略結婚せねばならんというのを知ってしまったからじゃ。ブリミルに誓った永遠の愛は今でも皇太子の中に根付いておる。そりゃあ皇太子だって自分の好きな女を他人なんぞに渡したくはねーわな。 だがレコンキスタがいつ攻め込んでくるか判らない状況で、ゲルマニアと同盟を結べないトリステインは一溜まりもなかろう。 アルビオン王国は明日滅びることは確定、トリステイン、引いてはアンリエッタ王女を救う為には自分ではなくゲルマニア皇帝と結婚させる以外に道はない。 故に、王女の未練の種になる自分が立派に討ち死にしてみせることで、王女の中から未練を取り払おうとしている、わしにはそう見える。 愛する女に生きていて欲しいからあえて死んでみせる、わしの世界でもそういうこたァしてのけられる奴はそうはおらん。ウェールズ皇太子は随分と立派な皇太子じゃよ」 それに、とジョセフは思った。 もし生き延びてしまえば、王女が馬の骨に嫁ぐのを見送らなければならない。 (そいつぁイヤじゃよなァ) だがそれは言わない。言ってしまえばこれまでの話がダイナシになる。 ルイズはぽつりと、呟くように言った。 「早く帰りたい……トリステインに帰りたいわ。この国嫌い、イヤな人達とお馬鹿さん達でいっぱい。誰も彼も自分のことしか考えてない。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ……」 若い少女に、全てを察しろというのは酷な話である。だからジョセフはその言葉を否定も肯定もせず、ただルイズの小さな頭を撫でていた。 「でも、でも……!」 ルイズはジョセフのシャツをぎゅ、と握り締めて、搾り出すように呟いた。 「例え結婚できなくったっていいじゃない! 好きな人が生きててくれればそれだけでいいのに! 死んだら二度と会えないのに!」 ヴァリエール公爵家三女でもメイジでもなく、ルイズという一人の少女の言葉だった。論理的ではないが、一理ある。 ジョセフは黙って、胸の中に抱いたルイズの頭を撫でている。ルイズは頭を撫で続けられながら、はっとした顔でジョセフを見上げた。 「……ジョセフ、右手出して」 「右手か?」 包帯が巻かれた右腕を差し出すと、ルイズが手ずから包帯を解いていく。包帯が取られてしまえば、昨夜電撃で焼け焦げた無残な火傷の痕は、既に殆ど治っていた。 ほぽ治りつつある腕を見て、安堵の溜息を漏らした。 「……良かった、殆ど治ってる」 「心配してくれたのか?」 その言葉に途端に真っ赤になった顔で、あ、う、と言葉にならない声を断続的に発し、その後でちょん、と脇腹をつついた。 「……私を守るためにあんな大怪我したんだもの。心配だってするわ――ってカンチガイしないでよ! 使い魔がケガしたんだから主人が心配するのなんて当たり前じゃないの!」 何も言っていないのに一人でヒートアップしてあたふたと言い訳を始めるルイズを、もう一度ジョセフはわしゃわしゃと撫でた。 「ルイズは本当に優しい子じゃな」 「ななな何を言ってるのかしらこのボケ犬!」 茹で上がったタコのような顔で懸命に反論を試みるが、ジョセフはただ優しげに微笑んでいるだけだった。 やがてルイズがジョセフの腕から離れると、もう一度長椅子に座り直した。 しばし静寂が二人を包む。その沈黙を破ったのはルイズだった。 「ワルドに、結婚しようって言われたの」 「……そうか」 無感情に答えたのは、感情を出すと殺気じみたそれしか出ないのが判っているからだった。 「ワルドは……憧れの人だったわ。もしかしたら初恋だったかもしれない」 けれどルイズはジョセフの返答につっかかりもせず言葉を続ける。 「でも……今はどうなのか、自分でも判らないのよ」 互いの父が交わした結婚の約束。頼り甲斐があって優しいワルド。 幼いルイズがぼんやりと思い浮かべていた未来、それが現実になろうとしているのに、今のルイズはそれを無邪気に喜ぶ気にはなれなかった。 明日滅びる国を目の当たりにしているからだろうか。違う。 親友の思い人が死地に向かうのを見送らなければならないからだろうか。違う。 十年前の美しい思い出、十年も経った昔の思い出。 魔法衛士隊グリフォン隊の隊長になったワルド。昔の思い出のまま、再び自分の前に憧れた憧れの人。 そんな彼が結婚しようと言ってくれたのに。どうして、使い魔の老人に相談なんかしているのだろうか。 自分でも判らなかった。だから答えが欲しかった。 今、自分の心に影を差しているものの正体が、知りたかった。 「……ねえ、ジョセフ。結婚ってどんなもの? ジョセフが結婚した時、どんな気持ちだった? 結婚したら何が変わった? ――どうして、結婚したいって思ったの?」 混乱した心を映す様に、ルイズの問いは順序を得なかった。 ただ心に浮かんだ由無し事を問いかけただけだった。 不意の質問をぶつけられたジョセフは、ふむ、と顎に手を当て考えた。 「そーじゃなァ、んじゃわしとスージーQの馴れ初めから話すとするか。わしがエリザベス母さん……その時はリサリサと名乗っていたが、母さんの召使をしていたのがスージーだった」 「え……ジョセフって貴族なんでしょう? どうして召使と……」 「んあー、わしの世界じゃ五十年前でも身分制度がかンなり平坦になっとったからのォ。わしを育てたエリナお祖母ちゃんもその辺りは気にしない教育をしとったからな。後で結婚した時ゃ普通に喜んでくれた」 ふむ、とステンドグラスを見上げて咳払い一つ。 「スージーは小生意気で小憎たらしくて大分粗忽モノだったが、なかなか可愛かった。まー憎まれ口ばっかり叩き合ってたが、嫌いじゃあなかった。 で、柱の男達との決着をつけたわしは幸運にも漁船に助けられ、一命を取り留めた。ちょーどわしを助けた漁船のオヤジが母さんと知り合いだったんで、そのまま館に運ばれて療養することになった。 あん時ゃマジで死ぬかと思ったわい。左手ブッた切られるわ火山の噴火に巻き込まれるわものすごい高さから海面に叩きつけられるわ左手に海水がシミてそりゃーいてェのイタくないの」 「話が横道にそれてるわよ」 ジト目のルイズのツッコミに、ジョセフは悪びれず答える。 「まァまァ、そんだけ大変だったんじゃ。で、あれやこれやバタバタしてたもんで館にゃわしとスージーQとシュトロハイムだけだった。で、シュトロハイムに迎えが来て、その場しのぎじゃが義手も貰った。でも満足に動けんかったんで、スージーに看病されっぱなしでな」 右手で顎を弄りつつ、五十年前の光景を思い出す。 「ありゃー、もうそろそろ春になる頃合で、三月になったばかりにしちゃけっこう暖かい昼のことだったな。ベッドに寝転がってスージーにリンゴむいてもらってな、食ったんじゃ。 それがなんかえらくウマくてなァ、スージーと一緒に食べてうめェうめェって言い合っとったんじゃ。で、食い終わってもう一つリンゴむいてもらったんじゃが、その時のスージーの横顔がえっれェキレーでなァ」 脳裏に刻み付けたその光景を思い起こし、ジョセフはニシシと笑う。 「その時直感した、『こいつとならけっこーウマくやっていけるんじゃね?』とな。で、『結婚しちまおうぜ、スージーQ』と考える前に口に出とったな。スージーも驚いちゃおったが、満更でもない顔してニッコリ頷いたんじゃよなァーッ」 くくくくく、と膝をバンバン叩くジョセフだが、横で聞いていたルイズは呆れ顔だった。 何故いい年したジジイのノロケを聞かされなくてはいけないのか。 「ジョセフ、今の話の何処に私が参考になる点があったのかしら」 「本題はこっからじゃよ。結婚なんてそうメンドくさく考えるコトでもなくてな、やっちまえばそんな大したコトでもないんじゃな。逆に考えたら、本当に大好きな相手とならわしみたく考えんでスパンッと出来るようなモンなんじゃ。 だがルイズは考えてしまう。何故結婚を躊躇うンか、そこを自分の胸に聞いてみたほうが早いじゃろ」 「…………」 ルイズは、口を閉ざして思考に耽る。 何だろう。ヴァリエールの三女だというのにゼロだと笑われるおちこぼれメイジなのに、スクウェアメイジと結婚できるはずないからだろうか。 妻の話をするだけでこんな嬉しそうな顔する使い魔を元の世界に戻すまで結婚なんかしてられないからだろうか。 それは理由の一つだ。決して小さくはない。だが決定打じゃない。 じゃあ何、と考えようとして――ルイズの耳が真っ赤になった。 かなり早いうちにそこに行き着こうとはしていた。でもその考えを懸命に否定しようとしていた。だが何度考えを巡らせても、そこに辿り着く。 それが本当の気持ちなのかなんて、判らない。でも確かめる価値はあるんじゃないだろうか。 例え使い魔だろうと老人だろうと。 どんなに感情が高ぶった時でも、異性の胸に抱きついて縋り付いて泣いた事などなかったのだから。 意を決して、顔を上げる。そうすればじっと自分を見つめているジョセフと視線が合い―― 「ふんッ!!」 裂帛の気合と共に、渾身のチョップがジョセフの脇腹に入った。 「え、えェーッ!? わ、わし今何も悪いことしとらんぞ!?」 「う、うるさいうるさいうるさいッ!」 脇腹をさするジョセフから顔を背け、荒くなった呼吸と、胸の中で暴れる心臓を宥めにかかる。 これはマズい、これはどうしようもない。ここに来て目を背けている訳には行かなくなった。これは大きすぎる。これでは結婚できるはずがない。 たった今、自分の中を駆け巡った感情は、ワルドの側で感じた事はなかった。 (ど、どうしよう……いいえ、落ち着くのよルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! こういう時は素数を数えればいいってどこかの神父様が言ってたような気がするわッ!) そういう思考に走ること自体混乱のきわみにあるという事からも目を背け、ブツブツと素数を数えるのを訝しげな目で見られながら、何とか心拍数を平常に戻した。 ふぅ、と吐息を漏らしたルイズは、ちら、とジョセフを横目で見た。 「……ね、ジョセフ。さっきの話の続き……聞きたいわ」 「続きか? でも聞いてて面白い話でもないとは思うがな」 「……いいの。私が聞きたいの」 あの悲しいパーティに戻るよりは、幸せばかりが詰まったジョセフの話を聞いている方がずっといいだろう、と。まだ幼い少女にとって、幸せな幻想はまだ必要だった。 それからまた、ジョセフの昔語りが始まった。 色んな事があって、色んな嬉しい事や色んな悲しい事があって、色んな幸せな事があって。 (……ああ、やっぱり。ジョセフを元の世界に戻すまで……結婚なんかしてられないわ) と、責任感の強いルイズは思い。 (……そう言えば、ジョセフが奥さんにプロポーズしたのって……春先だ、って言ってたわ) ラ・ロシェールを出てからここまで張り詰め続けていた気が弛緩し、疲労が眠気を引き連れてきていた。 うっすらと波紋を纏うジョセフの真横は、何となく春の日差しの中にいるような心地よさ。 もうルイズに眠気に抗いきるだけの理由はどこにもなかった。 ジョセフの腕に寄ってしまった頭を引き戻す余力すらない。 (ああ……これなのかな。こういう気分だったのかしら……ジョセフが、結婚してもいいって思った気分って……) 緩やかに着実に眠りに落ちる直前、うわ言の様に、ルイズはジョセフに囁いた。 「ねぇ……後で、結婚断りに行くから……」 きゅ、とシャツの裾を摘んで、言った。 「一緒に、ついてきて……」 ことり、と眠りに落ちた。 * 故郷のヴァリエールの領地。忘れ去られた中庭の池。そこに浮かぶ小舟の上。 ルイズは、誰かの膝の上に座り、当たり前のように誰かに背中を寄せていた。 誰も知らない秘密の場所のはずなのに、この場所を知ってるのはもう一人だけのはずなのに。 目の前で誰かの手が器用にリンゴをむいている。 しゃりしゃり、と小気味良い音を立ててむかれたリンゴは、誰かの手で二つに割られる。 半分ずつになったリンゴをそれぞれの手に取り、それぞれがかじる。 まるで蜜のように甘かった。 二人で美味しい美味しいと笑い合って、食べ終わるとまた背中を預けて寄りかかる。 ふと手を上に伸ばして、誰かの帽子を手に取った。 それは羽帽子ではない。茶色でちょっとボロい帽子。 それを頭に被って、あははと笑う。 そんな、夢だった。 * キュルケ、タバサ、ギーシュはパーティが終わろうとするホールを後にし、給仕にどこで寝ればよいかを聞いた部屋へと向かっていた。 すると暗い廊下の向こうからこつこつと歩いてくる足音が聞こえ、ふとそちらを向いた三人は――開いた口がふさがらない、とばかりに口をぽかんと開けることになってしまった。 廊下の向こうからやってきたのはジョセフとルイズ……正確に言えば、ルイズをお姫様抱っこして歩いてくるジョセフの姿。 大好きなおじいちゃんにだっこされて安心して寝入っているルイズと、至極当然とばかりにルイズをだっこして歩いているジョセフ。 (なんというバカ主従……!) 戦慄にすら似た思いを抱くに至った少年少女の気持ちも知らず、ジョセフは声を掛けた。 「お、パーティ終わったか」 「あ、ああ……終わったよ、ジョジョ」 気分の優れない様子で頷いたのはギーシュだった。 「んじゃ、三人にちょいと頼みたいコトがあるんじゃが。頼まれてくれるか?」 ジョセフの頼みを聞いた三人は、首を傾げた。 「別に構わないけど……それで何をするの?」 三人の疑問を代表して聞いたキュルケに、ジョセフはニカリと笑うだけだった。 「ま、それは後で種明かししてやろう。何もなかったらごめんちゃいじゃがなッ」 くくく、と笑ったジョセフは、三人にどこで眠ればいいんじゃろか、と聞いて共に客人用の部屋へと歩いていく。 ルイズ主従にあてがわれた部屋は、二人用の部屋であった。粗末ではあるがベッドは二つあり、片方のベッドにルイズを寝かせて自分ももう片方のベッドに腰掛けた。 ややあって、ドアをノックする音が聞こえる。 「どちらさんかね?」 扉も開けずに声を投げる。 「私だ。ワルドだ」 「主人は寝ておりますがね。用があるなら明朝にでも」 他人行儀で無愛想な返事にも構わず、ワルドは冷たい声で言った。 「君に言っておかねばならない事がある」 「なんですかな?」 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 「はあ」 ものすごいどうでもよさそうに答える。 「婚姻の媒酌を勇敢なウェールズ皇太子に頼めるならこれほど光栄なことはない。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を挙げる」 ジョセフは言葉が続く間、小指で耳をほじっていた。 「君も出席するかね?」 「挙げるんなら出席しますがね」 ルイズが既に断る気でいることは言わない。 「そうか。では主人の晴れの式に参列するといい」 くぁ、と欠伸をしつつ答える。 「了解しました。んじゃ用事はそれだけですかな」 「ああ」 それを最後に廊下を去っていく足音が聞こえる。 まだ安らかな寝息を立てるルイズを寝かせたまま、ジョセフは手洗いに向かった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1017.html
儀式初日 今日はサモン・サーヴァントの儀式があった。あたしが呼び出したのは火トカゲ! 大きくて鮮やかな炎の尻尾を持ってるから、おそらくは火竜山脈のサラマンダーに 違いないわ!!明日ルイズに自慢してやろっと。あの子絶対に悔しがるわ。 あたしのライバルのルイズは変な平民を呼び出していた。 呼び出せただけでも運が良いと思う。失敗すると思ってたのにザンネン。 でも、どうしてだろう?ルイズの呼び出した平民を見てると嫌な気分になる。 儀式より一日目 今日は色々な事があった。 ルイズが皆が止めてるのに錬金をして教室を爆発させた。相変わらずの威力ね。 ミセス・シュヴルーズが気絶して授業が無くなったのは良かったわ。そこはルイズに感謝しなくっちゃ。 罰の教室の掃除が終わってから、あの子ったら随分落ち込んでた。少し心配だわ。 それから何があったのか知らないけど、ルイズの使い魔がギーシュに土下座してた。 凄く卑屈になってたけど、その姿を見てあたしはなんだか不安になった。 儀式より二日目 ギーシュが死体で発見された。身体を解体されて一つ一つ丁寧に並べられてたらしい。 見つけたのはモンモランシー。いつまで経っても姿を見せないギーシュが心配になって 部屋まで見に行って、そこで見つけてしまった。モンモランシーの取り乱し様は見ていて 痛々しかった。神様はなんて残酷なのでしょう。 先生たちは犯人探しに駆り出されてた。王宮からも使者が来たみたい。 ルイズは昨日の失敗を引きずってるのか、ずっと落ち込んでた。張り合いがないわね。 せめてあの子が元気なら、あたしの気分も良かったのに。 儀式より三日目 今日は授業が休みだからモンモランシーのお見舞いに行った。ギーシュの使い魔が部屋の外で なかに入りたそうにしていた。あたしも入りたかったけど、モンモランシーに拒絶された。 扉越しに泣き声が聞こえてきた。あたしにはどうしようもないのが、ちょっと悲しい。 ルイズも元気がない。寝てないのか眼の下にクマができてた。 からかっても生返事、ルイズらしくない。 儀式より四日目 今日もモンモランシーのお見舞いに行ってきた。今日は部屋に入れてくれたから一緒にお喋りができたわ。 ギーシュの使い魔はずっとモンモランシーを励ましてたみたい。 自分も悲しい筈なのにギーシュの使い魔らしいわね。 ルイズは相変わらず元気がない。食事も殆ど食べてないみたい。少し心配だわ。 タバサがルイズの使い魔は医者だと言っていた。ちょっと信じられない。人は見かけによらないものだわ。 儀式より五日目 モンモランシーがギーシュの使い魔を連れて部屋から出てきた。まだ辛そうだったけど、もう大丈夫よね?。 ギーシュの使い魔をモンモランシーは引き取るつもりらしい。嬉しそうに鼻をヒクヒクさせてた。 御主人様に変わってちゃんとモンモランシーを守るのよ。 でも、モンモランシーの代わりにルイズが部屋から出てこない。呼びかけても返事なし。 いつもみたいに入ろうと思ったけど、なんだかできなかった。 儀式より六日目 相変わらずルイズは出てこない。部屋の前に置いた食事は無くなってたから、ちゃんと食べてはいるみたい。 ルイズの使い魔は医務室で働く事になったらしい。主人をほっといて何をしてるんだか。 そう言えばタバサの様子が少しおかしかった。ルイズの使い魔のことをチラチラ見てたけど、もしかして あんなのが好みなのかしら?あたしに言ってくれれば、もっとマシなのを幾らでも紹介してあげるのに。 儀式より七日目 朝早くにタバサがルイズの使い魔を連れて何処かに行ってしまった。もしかしてデート?! あの子も奥手そうな顔してヤル事が早いわ。あたしも負けてられないわね! でも、ルイズの事が心配だから暫く恋はお預けね。あ~あ、早くルイズが元気にならないかな。 儀式より八日目 タバサがルイズの使い魔と戻ってきた。何をしてたのか聞いても教えてくれなかったけど、嬉しそうな顔だった。 あたしには判るわ!きっと愛の告白をして受け入れてもらったのね!!タバサ!あたしも応援するわ!!! でも、本当にあんな変なので良いのかしら?ひょっとして騙されてるんじゃ?。 まさかね、あの子はそうそう騙される様な子じゃないし。 ルイズの様子が心配で部屋に押し入った。あの子ったらすっごくビックリして怒ってた。 良いじゃない扉の一つや二つ、あたしが心配してわざわざ様子を見に行ってあげたんだから。 でも、ルイズが元気になって本当に良かった。 儀式より九日目 ルイズが漸く部屋から出てきた。まったく、心配かけさせないで欲しいわ。 モンモランシーも大丈夫みたいだし、ギーシュの事は残念だけど、元通りの日常が戻ってきて良かった。 大切な物は無くしてから判るって誰かが言ってたけど、今は本当にそう思う。でもみんな元通り何も無くしてないわ。 明日もみんなが幸せに暮らせますように。 儀式より十日目 今日起きたことは生涯忘れないだろう。 朝、またルイズが寝坊したと思って部屋を訪ねたら、首を吊って死んでいた。 モンモランシーは、ギーシュの部屋で、ギーシュの使い魔と一緒に、毒を飲んで死んでいた。 なぜ?どうして?昨日はみんな笑ってたのにどうしてなの? ルイズの使い魔が笑っていたのを見た。まさか、アイツが? 儀式より十一日目 フレイムにヤツを監視をさせていたら、一人、医務室で書類の様な物を見て笑っていた。 すごく気になる。様子を見て調べてみよう。 儀式より十二日目 タバサがあたしが止めるのも聞かずに、またヤツと出かけてしまった。 でも、これはチャンスだと思ったあたしは医務室を探して、ヤツが見ていたものを見つけた。 内容は言いたくない。最悪の代物だった。 タバサ!お願い!!無事に戻ってきて!!! 儀式より十三日目 タバサはまだ戻ってこない。神様お願いです。どうかタバサを守ってください。 儀式より十四日目 ヤツが何食わぬ顔をして一人で戻ってきた。 タバサは死んだ。母親にメッタ刺しにされて死んでしまった。 今日、あたしはヤツを殺す。みんなの仇を取ってやるわ!! 儀式より?日目 とんでもないヤツだった。フレイムが守ってくれなかったら、あたしも死んでいた。 ヤツとの戦いで身体がボロボロになった。自慢の髪も、胸も、脚も奪われた。 これじゃ男を誘惑できないじゃない。でも、何とか殺せたわ。 あたしももうすぐ死ぬけど、ヤツを丸焼きにしてやったからそれで満足。 これでみんなのところにむねをはっていける るいずたばさもんもらんしぎーしゅあたしもすぐにいくからね。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/300.html
「ちょっと! さっさと起きなさいよ!」 怒鳴ってはみたものの、男が目を覚ます気配はない。 (勘弁してよ…。私が運ぶの? こいつを? 歩いて?) げんなりする。平民が貴族の前でいつまでも寝ているなんて。 そういえば、コルベールはコイツのルーンを珍しいと評していたが…… (『平民』って時点で珍しいどころの騒ぎじゃないわよッ、ボゲがッ!) 「とに、かく」 ルイズは歩き始めた。『男』の足を引き摺りながら。 ふと、コイツの『名前』が気になった。使い魔には名前を付けなくては、と思っていたが、 平民とはいえ、人間相手に勝手に名前を付けるというのも気がすすまない。 「まったく、この『ドクロヒゲ』……初っ端から、ご主人様に…フゥ」 「迷惑かけるとは、イイ度胸してんじゃーねーの……! ハァ」 「疲れているならワザワザしゃべらなくてもいいだろう」 「そりゃ…そうだけど……」 「いったいお前は何者だ? なぜこんな事をしている?」 「私は…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…よ。 なぜって…アンタが気絶してるからじゃあないの……」 「ならばもう足を離したらどうだ」 「……………………」 (なによコイツ、起きてたんじゃないのさ!) 「ア、アアンタ、いつから起きてたのよッ!」 「ついさっきからだ、そしていい加減足を離せ」 「言われなくても離すわよッ! そして使い魔が命令してんじゃあねーわよッ!」 「使…い魔? なんのことだそれは?」 (使い魔! そんな事もわからないのコイツはッ!) 『使い魔とは何なのか』を男に説明しながら、あらためて自分が召喚したのが 『平民』なのだということをルイズは痛感した。 その後も男はここはどこかだとか色々聞いてきたがルイズは律儀に答えてやった。 挙句の果てには『元の世界に戻る方法はあるのか』なんてわけのわからない事を聞いてきたが それは無視した。 一つわかった事は、コイツには常識が無い事。平民の上に、常識もない。頭が痛い。 「それで……アンタの名前はなんなのよ?」 男は立ち上がるとペコリと一礼をした。 (なによ急にかしこまっちゃって…) 「遅れましたが自己紹介させていただく……… 名は………『リンゴォ・ロードアゲイン』」 「それで…アンタはオレの『雇い主』……そうとって構わないんだな?」 ルイズ達が部屋に辿り着いてリンゴォの放った最初のセリフがこれだ。 「だから…雇うだとかそういったレベルの世界じゃないのよ『使い魔』ってのは!」 半ば呆れた様な口調でルイズは言う。 (結局あの後コイツが名乗ってから部屋につくまで、こっちがさんざ 話しかけてもシカトぶっこいといて、開口一番の発言がこれ!?) ルイズは苛立っていた。 呼び出した使い魔には『忠誠心』というものがまるで感じられない。 (なんで私だけ『平民』なのよッ) いっそ何も出てこないほうがなんぼかマシだったかも知れない。 せめて、忠誠心というものがあれば……。 だが、今更考えてもしょうがない、そう思い直した。 「まあ、とにかく…その辺の話は明日するとして……。 今日は、疲れたから寝るわ……」 そう言いながら服を脱ぎ始める。 「あ、そうだ。アンタも洗濯くらいはできるわよね。という訳で……」 リンゴォに脱いだものを投げつける。 「それ、洗濯しといて。明日ッから早速よ!」 「オレがか?」 「ほかに誰がいんのよ、アンタしかいないでしょ。 何も出来ない使い魔なんだから、せめてそのくらいはしなさいよね」 ルイズの裸を見ながらリンゴォは思った。まるでガキだな、と。 胸ではない、精神が、である。 そしてふと窓を見たリンゴォは、月が二つ有ることに気付く。 (どうやら、本当にここは異世界らしいな) しかしその事を別段問題だとは考えなかった。 前居た所に戻りたいとは思わなかったし、そもそも自分は敗北した死体なのだ。 危惧する事と言えばルイズから感じる甘ったれたにおい。 自分が決闘を挑む事の出来る男が果たしてこの世界にいるだろうか? リンゴォだって年がら年中決闘しているわけではないが、それにしたって 相手が一人もいないのは困る。 目の前で服を着替えるルイズを見てリンゴォはあらためて思う。 (曲がりなりにも)年頃の娘が、使い魔だかなんだか知らないが、今日出会ったばかりの 見ず知らずの男の前で肌を晒している。誘っているなどという気配は微塵もない。 完全に、安全を保証された上での行為だ。そう思った。 本当はそんな保証など無いかも知れないが、少なくともこの少女はそう『思い込んで』いる。 自分で保障したものではない。誰かから与えられた安全だ。それを、『当たり前』だと。 当たり前の世界など、前触れも無く崩れ去ると言うのに。 現にリンゴォの世界は前触れも無く変化した。わけのわからないファンタジーに。 そんなルイズを見るだけでも、ここがどれだけ『甘ったれた世界』なのか知れるというものだ。 リンゴォは貴族に縁が無かった。 リンゴォの生まれた世界にも貴族はいたが、リンゴォの生きた世界にそんな者はいなかった。 だから彼はルイズの放つ甘ったれた悪臭に強い不快を感じていた。 ネグリジェに着替えると、ルイズは布団にもぐりこんだ。 「ふぁ…」 間の抜けたあくびをすると、ルイズは毛布を投げてよこした。 「アンタはそこの床ね……じゃ、朝になったら起こすのよ…」 明かりを消すと、あっさりと寝息をたて始めた。 リンゴォもそれに倣ってさっさと寝ることにする。 視界には月明かりの差し込む窓。 (オレの墓標に名前は要らぬ。死すならば闘いの荒野で……) (そう思っていたのだが……) 望みは、叶わなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/185.html
品評会、当日 その日は朝から騒がしく、ドッピオはいつもより早く目が覚めました 「・・・会場作りか」 騒がしさの原因は品評会のステージ作りでした 席などが置かれ、ステージが作られていきます。おそらく魔法で作っているのでしょう 特別席のようなものもあります。夜に来たアンリエッタや王族の席といったところでしょうか ドッピオは自分のカードを使った手品の最終確認を行います 「・・・朝早いのね・・」 騒々しさにルイズも起きてきました。ここで着替えをさせるのはもはや日課と化しています 「ドッピオ、分かってると思うけど」 「もちろん、いいところ見せますよ」 それだけ確認するとルイズは 「そう。なら後は成功させるだけね」 そう言ってルイズは部屋から出て行きます 「あれ?どこに行くんですか」 朝食も取るにもまだ早く、食堂は開いていないはずです 「王族の人が来るから生徒一同は出迎え とりあえずアンタも来なさい。すぐに品評会は始まるから」 そう言って出て行くルイズについて行くドッピオでした 朝早いというのに廊下で人と会いました 「あら、ずいぶんと早いのね。ミス・ヴァリエール」 「そっちもね、ミス・ツェルプストー」 それだけ会話するとルイズはキュルケの横をさっさと通り抜けました 「出迎えのために生徒は集合って言っても早すぎるんじゃないかしら」 「そう?そんなに早くは無いと思うけど」 実際は早いのですがルイズは時間を見ていなかったのであまり気にしていませんでした 「まあ品評会の優勝はドッピオには悪いけど私が貰うわ」 「その吠え面、今日こそは叩きのめしてあげるわ」 ルイズとキュルケの間に火花が散ります もはや日常茶飯事のようなものなのでドッピオは遠くから見守っていました 言い合いはしばらく続きました 「・・・時間」 タバサがそう言うと言い合っていた両者は正気に戻り 「うわ・・もう並んでる。急ぐわよ!」 「どうして止めなかったのよ!ドッピオ!」 「いや・・なんか止めるのも悪い気がして」 四人は走って出迎えの場に行きました 出迎えの場に行くともう人だかりが出来ていました ザワザワと騒いでいますが王族の馬車が入ってくるとそのざわめきも静まりました そして馬車から降りてきたのは 「・・・アンリエッタさん」 アンリエッタとその御付の者たちが降りてきました 「ようこそ。トリステイン魔法学院へ」 オスマンがアンリエッタに頭を下げています その後、長ったらしい前置きを言った後 「それでは品評会を始めたいと思います!」 教師コルベールの言葉によって品評会は始まりました さまざまな使い魔たちがいろいろな芸をしていきます なかには地味なものやとても派手な芸まで 各々の使い魔の性質を示すかのような芸をしていきます 「大本命が来たわ」 ルイズの一言を聞いてから少しの間、ドラゴン、シルフィードが空を飛行します それに見とれるものが多数、その中にアンリエッタも含まれていました 「次は私たちの番ね。行くわよ!」 「はい」 ステージに上がり、あらためて人の多さを確認しました 「・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 使い魔の種族は・・・・平民です」 その言葉に静かに笑うものが多数 (・・ホラ!アンタが手品をするとか言ってやんなさいよ!) (僕が言うんですか?・・・分かりました) 少し深呼吸をして 「僕の手品を見せたいと思います。まずこの手品にはカードを覚えてもらう人物が必要となります ・・・女王アンリエッタ、少し手伝ってくれませんか?」 その発言に周りがざわつきます 「わ、私ですか?」 「はい。貴女が尤も信頼できます」 「そ、それでは」 ステージにアンリエッタが上ってきます 「・・・五十二枚、ジョーカーを抜いたカードです ご自由に一枚お選びください。僕と主はそのカードを見ません」 「・・・選びました」 「それではそのカードを観衆の皆さんに見せてください 貴女と周りが証人となります」 アンリエッタはカードを見せています カードはハートの10です 「それではそのカードを戻して混ぜてしまってください」 「え?いいんですか?」 「はい」 言われたとおりに混ぜるアンリエッタ 「・・これで僕と主は選んだカードが何であるか分からなくなりました そこで我が主に直感でそのカードを選んでもらいます」 「・・・え?」 「さあ、主。どのカードか勘で選んでください」 「ええ?!ちょっと待って!私そんなの分からない・・・」 (大丈夫です。必ずルイズさんの選んだカードはアンリエッタさんの選んだカードと同じになります) ドッピオは超小声でそう言いました (本当になるんでしょうね) (はい。だから選んでください) そう受け答えして (・・・これかしら) 一つだけ間隔があいているカードを選びました そのカードは・・・ 「女王アンリエッタ。貴女の選んだカードはハートの10ですか?」 「・・・すごい、その通りです!」 子供のようにはしゃぐアンリエッタ 「もう一回やってみてもいいですか?」 「どうぞ、何度でもあててみましょう」 こうして何度か続いてその正答率は百%と取られるぐらいにドッピオとルイズはカードを当てていきました 魔法を使っているのではないかと言う疑問は平民とゼロということでありえないと思われたようです 「では、これで僕の手品を終わりにしたいと思います」 その言葉を発したと同時に惜しみない拍手が浴びせられました (成功ですね。ルイズさん) (・・・ええ) 「それでは最優秀を発表したいと思います 最優秀は・・・タバサと使い魔シルフィードです!」 周りからもれる声は当然、妥当などの声でした 「それでは次に特別優秀を発表したいと思います!」 「特別優秀?」 いつもの品評会には無い賞でした 「特別優秀はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと その使い魔、ヴィネガードッピオです!」 「え?」 「二人は前に来てください」 ルイズはその言葉についていけていませんでした 「ルイズさん?行きましょう」 ドッピオから話しかけられてようやく気を取り戻して 「私たちが賞を・・取った?」 「そうですよ。さ、行きましょう」 「ルイズ。おめでとう。それとドッピオさん。もう一度手品を見せてくださいね」 「はい。もちろんです」 「あ、あの女王アンリエッタ。この賞は一体・・・」 「本当はこの賞は品評会とは関係ないんです。 ですけど賞の授与がたまたま品評会と重なってしまったのでこのときに一緒にやろうと思って」 コホンと咳払いをしてアンリエッタは 「このたびの破壊の杖奪還の件、真に大義でした そのことを賞しシュヴァリエの爵位を貴女に与えたいと思います」 特別優秀賞、その正体はフーケを倒したことに対する賞でした 「今夜はそのことを称してささやかなパーティーをしたいと思います 本当に大義でしたよ。ルイズ」 「・・・いえ、勿体無いお言葉です」 「それでは・・・」 「あ、あのドッピオには何も無いんですか?」 「・・・・今回の件での活躍は聞きましたが、彼は貴族ではないので」 「・・そうですか」 そう言って賞の授与は終わりました アンリエッタはこの後すぐに王都に戻ることとなり、品評会は終わりを迎えました
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1568.html
本日はコルベールの授業…のはずであったが、ヅラを被ったコルベールの出現により事態は急変する! トリステインの姫殿下・アンリエッタが学院に行幸するというのである。 授業は中断し、生徒たちは出迎える準備に取り掛かる。 これこそが日常が魔界に変わるとき。そう、平穏な日常の崩壊の開始の合図になろうとは誰一人予測していなかった。 ゼロの奇妙な使い魔~フー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ~ [第二部 アルビオン、その誇り高き精神] 第一話(11) 王女のために! その① その日、ルイズは寝覚めが悪かった。マリコルヌの愛の言葉が五月蝿かったからではない。 なぜなら変な夢をみてしまったからである。それは昔の夢… そこは小船の上。ルイズは小さな頃、嫌なことがあると此処に逃げていた。 そうしたら憧れの子爵様が迎えに来てくれるのだ。 しかしここからが昔の出来事と異なっている。 子爵様がヴァリヴァリと半分に裂けて中から黒いウジャウジャ。 つまりフー・ファイターズが現れる。 更には湖全体が真っ黒になり盛り上がってくる。 そうして飲み込まれてしまうのだ。湖の中へと… ルイズは目が覚めた。 傍らにはカムフラージュの為にフー・ファイターズがつくっておいた、フー・ファイターズ(下っ端)がいる。 フー・ファイターズ本体に比べると少々不細工な作りになっており、人語も喋らない。 このことを知っているのは、ルイズのほかにオールド・オスマン、マリコルヌ、タバサ、そしてコルベールである。 因みにコルベールは前回のフーケ事件の報告の際に、出番がなく空気と化していたが、一応部屋にはいたので知っているのである。 そして以上が今朝のできごとである。 第一話(11) 王女のために! その② 時は戻って、アンリエッタが学院に到着。 主に男子がアンリエッタ姫殿下、女子が魔法衛士隊隊長ワルドを見ている。 正確には少し違うが、それはルイズも例外ではない。例え寝覚めが悪くたって見てしまう。寧ろ例外は別のところにいる。 まずは勿論無関心なタバサ。次にルイズを見つめているマリコルヌ。 そしてお互いに抱き合い、熱い口づけを繰り返す、ギーシュ・モンモランシーのバカップルである。 この四人を除いて大抵の人物が盛り上がったお出迎えが終わり、そうこうしている内に夜になる。 夜と言ったらアンリエッタの時間である。 フードを被り、見つからないようにと親友ルイズの部屋に向かう。 そうして部屋の前に着き、規則正しいノックをする。 そうしたら扉が開く。………はずである。 普通は開く、例え規則正しいノックじゃあなくても。 だけど開かなかった。だから無理やり開けた。 そうするとアンリエッタの目の前には、見たことのないグチュグチュした黒い化け物がいる。 アンリエッタは勢いよく扉を閉め、扉を背にして考える。 「えーっと、あれは…そうよ!きっとルイズの使い魔さんなんだわ!昔から何だか変わってたところがあったし…。」 そう考えてアンリエッタはルイズの部屋に入る。不法侵入だ。そんでもって話しかける。 「今晩は、使い魔さん。」 「フショアアァァァア。」 「ルイズはお元気ですか?」 「フーフォアアァァアア。」 暫くこんな感じでやりとりが行われた後、アンリエッタは会話が成立していないことに漸く気が付いた。 第一話(11) 王女のために! その③ その頃ルイズは… FFと一緒にマリコルヌと外にいた。 「おーいルイズ、僕のルイズ。」 マリコルヌが話しかけてもルイズは心此処に在らずだ。 「なんなら私の水を分けてあげようか?」 コップに注いだ水を差し出すFF。やはりルイズの反応はない。 なんだかんだで延々と惚けたあと、ルイズは自分の部屋に向かって歩き出した。 部屋の前に到着し、ドアを開けてルイズはあることに気が付いた。 誰かが自分のベッドで寝ていることを。ちなみに横ではFF下っ端が突っ立っている。 ルイズは誰だろうと思って近づいてみる。 そうするとどこかで見たことのある人物であることがわかる。 (姫様!姫様が寝てる。) そこでタイミングよくアンリエッタが目を覚ます。 「…んっ、……!!ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ。本当にお久しぶりね。」 「ひ、姫殿下、恐ればせながら何故このような下賎な場所に!?」 「そんなに畏まらないでちょうだい、ルイズ・フランソワーズ。わたくしたちはお友達ではなかったの?」 「もったいないお言葉でございますわ、姫殿下。」 ルイズはとても緊張した面持ちで話している。 それをよく思わないようで、アンリエッタはそのことを悲しみルイズに以前のように話すように懇願した。 アンリエッタの懇願に対してルイズは、感無量と言った感じで表情にその心のうちを映した。 第一話(11) 王女のために! その④ 「どうかされたのですか、姫様?」 数分の間、懐かしい話に花を咲かせていた二人であったが、突然アンリエッタの表情に影が差していることに気付き、ルイズが切り出した。 「わたくし、結婚するのよ…。」 「………おめでとうございます。」 先ほどの表情から、結婚はアンリエッタが望んだものでなく政略結婚であることをルイズは察した。 素直に喜ぶことのできることではないが、ルイズは形式的に祝福をする。 「…それで、…そのことで頼みたいことがあるのです……。」 「何ですか、姫様?」 「…このことは誰にも話してはいけません。わたくしにはあなたみたいに頼める人はほとんどいないのです。」 「もちろんです、姫様!なんなりとお申し付けください。」 ルイズはやる気満々だ。 「わたくしはゲルマニア皇帝に嫁ぐことになったのですが…」 「あの成り上がりのゲルマニアにですか!?……」 ルイズはもう少しでゲルマニア批判を続けるところであったが、キュルケのことを思い出し、しょんぼりと押し黙ってしまった。 だがそんなことはお構いなしと言うか、天然で気付いていないアンリエッタは最近の政治情勢を語りだした。 話を要約するとアルビオン王家が反乱軍の貴族派によって倒されそうだということと、貴族派はこの婚姻を基とした同盟を望んでいないという事である。 「もしかして婚姻を妨げる材料がアルビオンにあるということですか?」 気を取り直したルイズが心配そうに尋ねる。 「おぉ、始祖ブリミルよ…。この不幸な姫をお許しください………。」 ルイズは私が何とかするとでも言わんばかりに興奮している。 そこでアンリエッタは告げた。アルビオン皇太子ウェールズにしたためた、とある一通の手紙の存在を…。 第一話(11) 王女のために! その⑤ 「それを取り返してくればいいんですね?」 ルイズは自分がやることを理解した。『愛=理解』だ。しかしアンリエッタは心配そうに手を握り言った。 「いいえ、やっぱり駄目よルイズ…。無理よ、無理だわ。あんな危険な所にお友達であるあなたを行かせるだなんて…。きっとわたくしはあせっていて混乱していたんだわ。今のことは聞かなかったことにしてください。」 しかしルイズはやる気満々だ。 「大丈夫です!姫様の頼みであるのならば、たとえ蛙や蝸牛の中にだって行きますわ!それになによりお友達ではありませんか。私に任せてください。」 ルイズのこの言葉を聞き、アンリエッタは感動してルイズに抱きついた。 「あぁルイズ、わたくしの大切なお友達…。絶対に生きて帰ってきてくださいね。」 「もちろんです、姫様。大船に乗った気でいてください。明日の早朝には出発いたします。」 それを聞いたアンリエッタは自らの指から水のルビーをはずし、ルイズに渡した。 「もし、旅の途中でお金に困ったらこれを質にでも入れてください。あなたの成功を祈っています。始祖のご加護がありますように…」 ルイズが頷いて返事をし、アンリエッタが退出をしようとしたとき、窓から丸いものが突っ込んできた。マリコルヌだ。 「僕のルイズ、さっきは元気がないようだったけど大丈夫かい?」 二人はきょとんとしている。するとマリコルヌが小瓶を取り出してルイズに渡した。 「これは元気の出る香水だよ。ミス・モンモランシに譲ってもらったんだ。早く君の笑顔を見せてね、僕のルイズ。」 因みにマリコルヌはアンリエッタに気付いていない。そこでアンリエッタは口を挿んだ。 「あなたはもしかしてルイズの恋人なのですか?優しい恋人を持ってよかったですね、ルイズ。」 「ちちち、違います姫様!こいつはただのクラスメイトです!!けけけ決してそのような関係じゃあありません。」 そしてマリコルヌもアンリエッタに気が付き、跪く。 「ひ、姫殿下、どうしてこのような場所に!?」 「ルイズに用があったのです。…そうだわ、貴方もルイズに付いていってくれませんか?ルイズととても仲が良さそうですし、きっととても信頼できる人なのでしょうね。」 「ひ、姫様、こいつとは姫様の思っているような関係じゃあありませんわ!」 「そんなに照れなくてもいいのよ、ルイズ。言わなくてもわかってますから。」 「姫様ったら~。本当に違うんですってばー!!」 結局アンリエッタには理解してもらえず、マリコルヌもお供することに決まってしまい、ルイズはため息をもらすのだった。 第一話(11) 王女のために! その⑥ 「オスマン学院長、では、こちらをお願いします。」 「うむ、確かに受け取ったわい。」 ルイズの部屋から出たアンリエッタが向かったのはオスマンのところであった。 城の中には貴族派の内通者がいるらしく、最近は重要な書類や古くからある貴重なものまで盗難が続いているという。 だから密かにアンリエッタは、始祖の祈祷書を数少ない信頼の置けるものの一人、オスマンに預けにきたのだ。 「では、ルイズが帰ってきたらしっかり渡してくださいね。巫女と詔についての説明も宜しく頼みます。…それじゃあわたくしはもう一人訪ねに行かなければなりませんので。」 そういってアンリエッタはオスマンのところをあとにした。 次にアンリエッタが向かったのは魔法衛士隊隊長ワルドのところだ。 「これはこれは姫殿下、どのようなご用件で?」 「あなたに頼みたい任務があります。」 「ふむ、何でも仰ってください。どんな任務でもこなしてみせましょう。」 ワルドのこの言葉を心強く感じ、手紙奪還の任務を話す。 するとドアを突き破り衛兵が入ってきた。 「アンリエッタ姫殿下、大人しくこちらまで来てください。」 アンリエッタはこの衛兵がアルビオンの手先だとすぐに理解した。 メイジ二人にたった一人で挑むなんて頭脳がマヌケとしか思えないのだが、衛兵は手を差し出す。 ドアの側にアンリエッタがいたのでワルドと衛兵に挟まれる形になっている。 緊迫する空間。ワルドはその二つ名『閃光』の如く、素早く呪文を唱えエア・ニードルを発生させて一直線上に向かっていく。 このような場所でライトニング・クラウドは使い辛いし、エア・カッターでは巻き込んでしまう恐れがあるからだ。 「ワルド子爵、早くあの賊を捕らえてください!」 ワルドのエア・ニードルが対象の心臓に突き刺さる。 アンリエッタは一瞬で終わるだろうと思っていた。だからアンリエッタ自身は杖をしまったままだったのだ。 しかし、それが間違いだと言うことにそのあとすぐに思い知ることとなった。 第一話(11) 王女のために! その⑦ 相手の衛兵は無傷だ。なんともない。血の一滴すらも流していない。 それもそのはずである。当然の結果だ。 ワルドの攻撃の対象は衛兵ではなく…… アンリエッタだったのだ!!! アンリエッタは一瞬で終わると思っていた、衛兵相手に…。ワルドはスクウェアクラスだ。 だからそう思っていた。それが間違いだったのだ。 いや、一瞬で終わったことには違いなかった。ただしアンリエッタがであるが。 「い…ったい、…な、な…にをする…んで…すか………」 アンリエッタは心臓を突き刺され、胸の位置からその綺麗な服は真っ赤な鮮血に染まっていった。 ワルドが杖を引き抜くと、アンリエッタは力なくその場に倒れた。 「死とは身近な友人だということを、彼女は自身で理解をしてくれたようだ。」 先ほどの衛兵が近づいてくる。その顔は、グロテスクにもグチャグチャになって新たな形を形成していっている。 その顔はいつのまにかレコン・キスタ軍の総司令官オリヴァー・クロムウェルのものとなっていった。 「まさかレコン・キスタ総司令官がこんなところにいるとは思うまい。」 そう言いながらアンリエッタの遺体に近づく。そうすると先ほどまで息絶えていたはずのアンリエッタが起き上がり、クロムウェルに跪く。 クロムウェルが靴を嘗めろと言うと靴を嘗めた。これにはワルドも内心顔を歪めた。 「この虚無の力と先住魔法クヌムがあれば、我らの勝利に間違いはないだろう。そう思わないかね、ワルド子爵。」 汚れた笑いが響き、衛兵は仕事に戻っていった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1327.html
ワルキューレの振り下ろした槍は、ブラック・サバスの後頭部に勢いよくヒットした。 その結果、そのままブラック・サバスは地面とディープキスをする破目になった。 それを見たギーシュはフンッと鼻を鳴らす。すると再びワルキューレが槍を高々と掲げた。 もう4,5発ぐらい喰らわせないと気がすまない。 ドゴォ!ドガ!ボゴォ!メメタァ!ドスゥ!!! 「君がッ!謝るまで!殴るのをやめない!」 徹底的に叩きのめしてやる!それも正々堂々とな! 一応女であるルイズを傷つけるのは、女性に優しいギーシュの評判をさげることになる。 だが、この使い魔なら!殺すつもりはないが、派手にやらせてもらう! それに決闘でなら、例え死んでも文句はあるまい!もし死んじゃっても、もう一度呼び出せばいい訳だしね! 『ゼロ』のルイズでも一度は召喚できたんだ!もう一度召喚するぐらいできるだろ! このまま!!槍の先端を!こいつの!目の中につっこんで!振りぬく! ブラック・サバスが宙を舞い、そして仰向けに倒れる。 「サバス!!」 ルイズはさらに槍を振り下ろさんとしているワルキューレに杖を向ける。 自分の考えが甘かった。なんでブラック・サバスが強いなんて思ったんだろう? ルイズを押さえつけたあのパワーも、きっと自分の勘違いだったんだ。 初めて成功した魔法の結果があいつだったから、きっと特別な力があるって思いたかったんだ。 『ゼロ』の私を押さえつけた私の使い魔は、『ゼロ』よりもほんの少しマシだっただけなんだ。 今さらになって後悔の念が心の中を支配しそうになる。 …………違う!今はそんなことしている場合じゃない!助けないと!私の使い魔を! 自分の魔法は絶対に失敗するかわりに爆発を起こす。効くかは分からないが、助けるにはこれしかない。 しかし、それを阻止するかのように、もう一体のワルキューレがルイズの前に立ちふさがった。 最初にブラック・サバスに突撃してきた奴だ。 ルイズは狙っていたコースを塞がれ、魔法を出すことができない。 「どきなさいよ!」 焦りながらルイズは、ブラック・サバスがまだ無事か確認する。そこで使い魔の様子が変わっていることに気づく。 ブラック・サバスは仰向けに倒れたままで、ルイズを指差し、じっとこちらを見ているのだ。 回りから見たらそれこそ、ルイズに助けを求めている姿にしか見えなかっただろう。 だが、ルイズは頭の中に響く声を聞いた。 それは、使い魔と主は意識を共有しているとか、信頼関係が生まれたとか、そんな大げさなことではなかった。 だが、確かにブラック・サバスはルイズにこう言っていたのだ。 (チャンスをやろう!お前には選ぶべき道がある!) 「とどめだ!ワルキューレ!」 ギーシュが機嫌の良さそうな声で命令を下す。 ルイズは叫んだ。呪文を唱えるように力強い意志を持って。 「ギーシュをやっつけて!!」 観客席で顔を赤らめていたシエスタは、派手な音でブラック・サバスが殴られるのを見て我に返り。 さらに数発槍が振り下ろされたのを見ると、思わず顔を背けた。 あの使い魔は殺される!そんな恐ろしい考えが浮かぶ。 そのとき叫びを聞いた。それは断末魔の叫びではなく、ルイズの命令だった。まだミス・ヴァリエールは諦めていない! だが次の瞬間、今までとは質の違う軽い音が聞こえる。きっと槍で貫かれたにちがいない。 ……恐怖で顔を背けたまま数秒たつが、どうも様子がおかしい。 自分の周りにいるメイジたちがざわめいている。何が起きたのだろうか。 恐る恐る戦いの場へ視線を向ける。 「え……?」 シエスタは絶句するしかなかった。 自分が顔を背けた数秒の間に何が起きたのか? ワルキューレの槍は黒づくめの使い魔にではなく、地面に突き刺さっていた。 さっきまでその場所にひれ伏していたブラック・サバスが消えている。 横にいるキュルケをみると、彼女も何が起きたか把握していないようだ。 タバサはじっとギーシュの方を見つめている。そのとき。 「うわあああああああああああ!!?」 断末魔の叫びのようなその声は、ブラック・サバスではなくギーシュのものだった。 慌てて、シエスタもギーシュの方を見てみる。それは彼女の理解の範疇を超えるものだった。 消えたブラック・サバスがいつの間にかギーシュの横に現れ、そのゴツゴツした両手を彼に向けている。 「つかんだ」 そのセリフはさっきと全く同じものだったが、今度はやけに凄みがあるように感じた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………… ブラック・サバスはギーシュの隣に立ち、両手を彼に向けて伸ばしている。 しかしそれらは決してギーシュには触れられてはいない。 宙ぶらりんのその両手は、しかし、何かを力強く捕らえているかのように固定されていた。 いや………確かに何かをつかんでいる………それは白くボンヤリと闇の中で存在している。 一方のギーシュはピクリとも動かずに、ただ悲鳴をあげているだけだ。 ブラック・サバスの方を見ようともせずに、最後にワルキューレに命令を下した時と同じポーズのまま固まっている。 変化した点といえば、その顔が恐怖で歪んでいることだけだ。 「うわあああああああ!離せ!くそ!」 慌てふためく声を上げながら、硬直しているというギーシュの異様さに、しだいに回りのメイジたちは薄気味悪さを覚え始めていた。 『ゼロ』のルイズの使い魔が「何か」をしているのは間違いなかった。 しかしその「何か」が分からない。 ギーシュはなぜ急に動かなくなったのか?何に怯えているのか?あの使い魔がつかんでいる「ボンヤリとしたもの」は何か? 「な、何をしているんでしょうか?」 シエスタがキュルケに尋ねる。しかしその質問に答えたのはタバサだった。 「分からない。だけど魔法ではない」 めずらしく即答したのは、タバサも興味が湧いているからだ。 「あの…白いのは?」 「それも分からない」 「もしかして幽霊かしら」 キュルケのその言葉にタバサがビクッと震えた。 ルイズはブラック・サバスとギーシュを見て、戦況が一転したことを理解した。 ワルキューレはすべて動きを止めている。これではゴーレムではなく、ただの銅像だ。 あれだけ派手に殴られてたはずなのに、ブラック・サバスには外傷が無いようだ。 仰向けに倒れていたところから、ギーシュの隣……いや影の前までの瞬間移動。 …それだけ早く動けるなら、相手の攻撃を避けるなりなんなりしなさいよね。心配して損したわ。 改めて、今の状況を確認してみる。 そこでやっと、ブラック・サバスがつかんでいる「白いもの」がギーシュの形をしていることに気づいた。 ブラックサバスはギーシュの影から、「ボンヤリと白く光るギーシュ」を引っ張り出してつかんでいる。 まるで夢でも見ているかのような気分だ。だが、ルイズは心当たりがあった。 (あれが……私が今までやられていたことか) 気づいたらブラックサバスの目と鼻の先で捕らえられている感覚。今日の朝も昨日のサモン・サーヴァントのときも。 ブラック・サバスは、ルイズの影から幽体離脱のように魂?いや精神?だけ引っ張り出していたのだろう。 まぁ詳しくは分からない。とにかく今はすることはひとつだ。 このままあいつが抑えてる間にすべてのワルキューレを破壊する。 もちろん、このままギーシュの杖を取り上げて勝ちにするほうが楽だろう。 だがあのプライドの高い男に、この後シエスタに謝罪をさせるにはそれなりの勝ち方じゃないといけない。 それにせっかくだから、回りの観客にも見せ付けておきたい。もう勝ったも同然だし。 しかし、その甘い考えを打ち砕くかのように、ギーシュの叫びが響く。 「ワルキューーーーーレ!!!!」 ギーシュの叫びと共に、沈黙していた7体のワルキューレが活動を再開する。 その動きは滅茶苦茶だった。……本当に滅茶苦茶だった。 しっちゃかめっちゃかに槍で空を斬ったり、ワルキューレ同士でぶつかり合ったりしている。 「ちょ、ちょっと!ギーシュ!」 「うおおおおおおおおおおおおおお!」 ルイズにワルキューレが突っ込んでくる。当たると間違いなく、致命傷になりそうな速度だ。ルイズは杖を強く握った。 「ファイヤーボール!」 炎は出ずにワルキューレの上半身で、爆発が起きる。 さらに追撃しようと身構えるが……その必要はなかった。ワルキューレの上半身は粉々に砕け散っていた。 「やった……!」 予想外の戦果に思わずガッツポーズをしてしまう。そのとき。 「ファイヤーボール!」 聞き覚えのある声のした方を見ると、キュルケの前でワルキューレが上半身をドロドロに溶かして倒れている。 「キュルケ!余計な事しないで!」 「私は私の身を守っただけよ。余計な事させたくないなら、そういう風に戦いなさい。ホ~ラ、来るわよ」 「言われなくても分かってるわよ!」 ルイズは再び杖を強く握り、ワルキューレを睨む。こうなったら意地でも全部倒してやる! そんな決意を固めるルイズを、キュルケは微笑を浮かべながら見つめていた。 ………そしてそんな二人を、この人たち実は仲いいのかしら。なんて思いながらシエスタは見つめていた。 「な、なんだぁ!それはぁ!」 いきなり、今までで一番大きいギーシュの悲鳴が上がる。 見るとブラックサバスが大きな口を開いている。 (安心しなさい。ギーシュ。そいつは噛み付きはしないわよ) ルイズは笑いながら杖を構える。 だがブラックサバスはルイズの予想外の行動にでた。 口から何かを吐き出したのだ。 ギーシュは何が起きているのか理解できずにいた。 「つかんだ!」という声のとおり、ギーシュはこの不気味な使い魔に拘束されている。全く動くことができない。 自分の肩を掴むその両手からは恐ろしいほどのパワーを感じる。とにかく指一本動かすことができない。 ワルキューレに命令するも、これもやはり思いどうりに動かすことができなかった。 というか、今ワルキューレがどこでどう動いているかが理解できない。 見て確認したいのに、使い魔の仮面のような顔から視線をそらす事ができないのだ。 急に使い魔が大きな口を開ける。その中を見てさらに驚いてしまう。 歯や舌という生物として必要なものが無いかわりに、「何か」がある! そしてそう思った次の瞬間ソレがこちらに向かって飛び出してきたのだ! 「!!」 とっさに目を閉じ衝撃に耐えようとする。しかし何も起きない。後ろから「ドガッ」という衝撃音が聞こえる。 恐る恐る目を開ける。まだ口は開かれたままだ。その中は何もない暗闇。 思わず目をそらそうと横を向く。すると視界の端に誰かの足が見える。 助けに来てくれた!もはや決闘のことなど忘れギーシュは安堵する。 しかしその誰かの足はピクリとも動かない。 (誰なんだ!助けてくれ!は!声がでない!) ギーシュは無理矢理首を捻り、ギリギリまで黒目を動かし自分の後ろにいる人物を確認しようとする。 (ん?あれ?なんだおかしいぞ?後ろのやつ倒れてる!?しかも顔から血を流して!? はっ!!なるほど!!うわははははははははははははははははは倒れてるのは僕でしたぁー!!) ギーシュは自分の後ろに、頭から血を流し下着に囲まれて倒れている自分を発見した。 ルイズはブラックサバスの口から何か箱のようなものが飛び出すのを見た。 自分のいる位置からではそれが何かは分からなかったが、それは発光体ギーシュの頭を通過した。 そして、その後ろでフリーズしていたギーシュ(本体)の頭に向かって飛んでいき、当たって跳ねた。 そこから先に起きたことは、ルイズにはスローモーションのように。 血を出しながらゆっくりと倒れていくギーシュ(本体)、宙を舞う箱、その箱の中から出てくる無数の白いモノ。 上手いこと風に乗った一枚がヒラヒラと自分の足元に舞い降りてきたとき、それが何かを理解した。 それはパンツだった。 (はぁ???) なんでパンツ?誰のパンツ?…………あれ?このパンツどこかで見た覚えが…………。 今はワルキューレを倒すべき時なのに、気になる……。こまかいことが気になると夜もねむれねえ質なのよ私。 朝、ブラック・サバスにカゴごと洗濯物を渡した。ブラック・サバスはそれを口の中に入れてどこかへ行ってしまった。 それ以来姿を見ていなかった。そして今あいつは口からカゴを吐き出した。 なぜか?そういえばさっきブラック・サバスにギーシュをやっつけろって命令した。これは攻撃手段のつもりだったのかもしれない。 実際今、ギーシュ(本体)は倒れている。さっき血を流していたようにも見えた。軽傷だろうが。 それよりも、鬼の形相をしながら下着に囲まれて倒れていることで、傷つく尊厳の方が重症のような気がする。 観客の方を見てみる。キュルケがパンツを持ち、こっちを見て笑っている。……コッチミンナ。アア、ヤジウマタチノホウマデトンデイッタノネ。 いろいろ考えた結果。 ……………………もしかしてこれは私のパンツですかーッ!? YES!YES!YES!OH MY GOD! 「……………………バカァー!!!!」 その日一番の破壊をもたらす爆発がブラックサバスとギーシュを飲み込んだ。 ギーシュ・ド・グラモン→再起不能 ブラック・サバス→消滅 To Be Continued 。。。。?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/420.html
まあ、なんだ。 結局さっきの一件はおれの『おいた』で済まされた。 おれはコレに納得がいかない。 何故ならその言い方ではおれが悪いことをしたみたいだだからだ。 まあその後ピンクの髪の女に連れられているって訳だ。 本心ではもっと胸のあるヤツがいいんだが、嫌な予感がするのでそれは黙っておく。 そしてどうやらここは異世界で魔法があるらしいところまで理解した。何故かおれの手も直っている。 「さて、とまずはアンタの名前ね」 「イギーだ。それが俺の名前」 「そう、イギー。よろしくね」 そう言われても状況がサッパリなんだが、おれがそう言うと 「状況って、アンタは私の使い魔になったのよ」 なんて返してきやがった。 使い魔ってのは何だ?と聞くと 「使い魔は使い魔よ」 あーあーこれだから人間は、説明になってないじゃねーか。 「使い魔って言うのは主人のメイジ、つまり私ね、が使役する絶対的な主従関係で成り立つ動物や幻獣のことよ」 ウィキペディアで調べた様な答えだな。 「とにかく!アンタは私に絶対服従!いいわね?」 「よくない」 誰がこんな貧乳なんかに服従するか 「………」 あれ、黙っているぞ?そんなにおれが否定したのがショックだったのか? 「だ……うよ」 ん? 「誰が貧乳よ~~~~!」 やべえ、つい言っちまってた! おれは自分の身を守るためベッドの下に飛び込む。魔法を使われたくないのでついでに杖も持っていく。 「あ!出て来なさい!このバカ犬!」 無視する 「杖を返しなさい!」 無視する 「さっさと出て来い!」 アーアー聞こえなーい 「いい加減にしなさい!」 そういってベッドの下に手を突っ込んでくる。今だ! おれはベッドの反対側から出てそのまま部屋を飛び出す。脱出成功! とはいかなかった。 「ドアが開けられねえ……」 クソッ!こんな時はあのブ男が開けてたのに! そしておれは殺気を感じた。後ろに振り向き 「いやあご主人様!今日も綺麗ですね!」 とりあえず褒めてみる。 「ありがと。出会ったのは今日だけどね」 もっともなお言葉で。 そして散々鞭で叩かれる。その最中に気絶しちまった。 「まったく…目覚めたら従順になってればいいけど」 そう言うルイズ。 絶対ならないぞ、おれは。 鞭で叩くようなやつに従うつもりは全くない。 「そろそろ寝ましょ」 そうしろそうしろ 「えーと着替えは…」 ム!覗けるのか、と思ったがあんな貧乳に興味はない。さっさと寝やがれ。 しばらくしてルイズが眠る。 それを確認しておれはベッドの下から出る。 「ザ・フールをおとりに使ってよかったぜ」 何か罰を与えないと気がすまないって感じだったからな。 おれは叩かれたくないのでザ・フールで自分の形を作ったって訳だ。(もちろんベッドから出るとき入れ替わった。) さて、おれも寝るか ベッドからルイズを下ろす。ルイズより早く起きて床にいれば寝相のせいになるだろう。 このベッド結構寝心地いいなぁ。 今日は疲れたので良く寝れそうだ。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/193.html
机を拭いて、床を掃き、爆発の結果により起こった惨状の後始末をしたルイズとペットショップ まあ、足で箒を使ったり塵取りを運んだりとペットショップが掃除の大部分をやったのだが 主人の不始末は使い魔の不始末。それ故にルイズの頭にはペットショップの行動など勘定に入ってない、そんなこんなでアルヴィーズの食堂に到着した一人と一羽。 三列の食卓には絢爛な飾りつけがされており、その上には飾りに負けず劣らずに豪華な食事が並んでいる。 始祖ブリミルと女王陛下にお祈りをしてから、モグモグと食べ始めるルイズ。朝に食べられなかったからか、かなり幸せそうだ。 だが、ある程度食べ進めてから、隣をキッ!と見るルイズ。その先には使い魔ペットショップの姿 「ペットショップ! あんたはご飯抜きって言ってるでしょ!そんな物欲しそうな目で見たってあげないんだからね!」 ルイズとしては格好良く決めたつもりだろうが、使い魔は食堂の外で待機するのが普通だ。 (食堂の中に入ってる事に注意しろよ!)と、割と色々な生徒が思ったが、ペットショップの目を恐れて口に出せずに居た と言うか、近くに居ると飯が不味くなる所の話ではないので、ルイズとペットショップの周囲の席がガオン!されたみたいに開いている。 食事に集中するあまりに、この異常事態に気付かないルイズは本当に大物である。 ルイズが食事に集中している時。 彼―――ペットショップは食事が欲しい等とは欠片も思っていなかった。食事抜きはマスターから与えられた罰でありそれを理不尽とは感じてない 彼が今考えているのは『下僕を如何にかして調達する必要がある』それだけである キュルケとタバサの間で起きた朝の1件もそうだが。 『それよりずっと前から』彼は、自分は何かを守りながら戦うのは苦手であると分かっていた。 自分だけでマスターを守れるとは自惚れていない。だから早急に、マスターを守る盾となる奴隷が彼には必要であった。 それなりに力があってタフであり、そして一番重要な事だが命令には絶対服従する下僕。それをどうやって捜すか彼は悩む マスターを置いて旅に出る訳にはいかない、予期せぬ幸運が入り込むのを期待するほど神経は図太くは無い どうやって奴隷を獲得するかペットショップが悩んでいる時、食堂の端で何か騒ぎが起こってるのが彼の目に見えた 距離は結構離れているが、彼の目は数km先の虫も軽く見える、故にその騒ぎを至近距離から見ているがごとくに鮮明に視認できていた 騒ぎは、ギーシュと言う名の金髪の少年が香水の瓶を落とした事から始まった それを黒髪のメイド、シエスタと呼ばれる少女が拾い、純粋な親切心からギーシュに渡そうとした だが、ギーシュはそれをガン無視、疑問に思うシエスタだが、ギーシュの友人がその疑問を解消してくれた。ギーシュにとって最悪な形で その香水の瓶はモンモラシーと呼ばれる少女の物!だが、今ギーシュは下級生のケティと言う少女と付き合っているはず! つまりそれが意味する事はただ一つ、ギーシュが二股を掛けていると言う事実! それから話しはトントン拍子で進んだ 「・・・・・・・・・・・・」 「ち、違うんだよケティ!これは誤解だ!」 オラァッ!バチンッ! 「一体全体どういう事よギーシュ!?」 「モ、モンモランシー!」 ムダァッ!ビシャッ! ケティから強烈なビンタをくらい、モンモラシーから香水の瓶を頭にぶちまけられたギーシュ 踏んだり蹴ったりだが、元の原因は二股を掛けた彼にあるのだから同情は出来ない。 しかし、肝心のギーシュの怒りは止まらなかった。 「き、き、君ぃぃ!な、ななな何て事をしてくれたんだい!」 こめかみを引き攣らせながらシエスタに詰め寄るギーシュ。 シエスタは恐怖のあまり何も言えずに頭を下げる事しか出来ない。殆ど土下座である。 ギーシュもそこで止めておけばよかった、だがしかし、周りの生徒達の視線が彼の恥を刺激して怒りを更に上昇させた。 割と洒落にならないぐらい切れたギーシュが無言で薔薇の造花を振る すると、花びらが宙を舞い、甲冑を着た女戦士の人形が現れた。ギーシュのゴーレムである 貴族が平民に魔法を使う、その恐怖のためなのか、シエスタの歯がカチカチと音を立てる。 「ひぃ・・・・・・!」 腰が抜けたらしく、地面に尻餅を突いた形でそのまま後退りを始めたシエスタ 恥も外聞も無く、ただ貴族と人形の恐怖から逃れるために逃走する哀れなメイド そんなシエスタの背に何かが当たった。 怯えたように後ろをゆっくりと振り向く、するとそこには。 「・・・・・・・・・・・・」 ギーシュが生み出した二体目のゴーレムの姿 それを見たシエスタは完全に静止していたが、半秒後、メイド服を汚して床に生暖かい液体が流れた『失禁』ってやつである そして大声で泣き始めるシエスタ。かなり可哀想である だが、それに一番慌てたのは元凶のギーシュ。 ちょっとビビらせようと思ってゴーレムを出したのだが、失禁してマジ泣きを始めるとは血が昇った頭では考え付かなかった 一気に頭が冷え、落ち着いて周りをゆっくり見るギーシュ。 男子からは「おいおい、相手が平民だからってそれはやりすぎだろ」と生暖かい視線 女子からは「サイテー」と分かり易い侮蔑の視線。 彼は、拙い事をやったのに今更ながら気付いた この事が広まるとモンモラシーやケティに本気で絶縁されるかもしれない 慌ててシエスタに優しく話しかけるギーシュ。 「あ、あの大丈夫かい?僕はもう怒ってないから安心しなよ」 だが、シエスタの目は完全に恐怖に染まっており、ただ「ごめんなさい」と連呼するだけ 自業自得だが、どうすればいいんだとギーシュは頭を抱えかけた、その瞬間。 「キョキョッ!」 甲高い泣き声。 慌てて声の元を見ると、ルイズの使い魔がこっちに飛んで来るのが見えた 私はその騒ぎを注意深く見る。初めはただのくだらない痴話喧嘩と分かって幻滅しかけた、が。 男が出した騎士の存在が、私の興味を引いた。脳裏に浮かぶのは、先程考えていたマスターの盾となる下僕の調達 マスターを見る、昼食を食べ終わったのか、机に突っ伏して眠っている。 周りを見る、マスターに害をなす存在の気配は感じない。 今、この空間に危険は一切無い!ならば今がチャンスだ! 『あれ』がマスターの盾に相応しい物か試してみよう 私は一声鳴くと、あの男に向かって飛んで行った。 目の前にはルイズの使い魔が見える。確か名前はペットショップだと思い出す 「ペットショップ君かい?見世物じゃないんだよ、こっちは忙しいんだ。どっか行ってくれ!」 割とテンパっているので声に何時もの余裕が無いギーシュ その一瞬、ペットショップが自分目掛けて恐ろしい勢いで氷柱を飛ばしてきたのに彼は気付いた! 「え?うわぁぁぁぁぁ!?『ワルキューレ』!」 ギーシュの叫びに青銅の女騎士が動く。 ドガッ!バゴンッ! 氷柱とギーシュの間に入る事が精一杯だったのか、防御行動すら取れずに氷柱をまともにくらって吹っ飛ばされる。 そんなワルキューレを冷めた目で見るペットショップ。 ギーシュの背筋に冷や汗が流れる 「何するんだ君ぃ!」 対するペットショップは返答の代わりに再度氷柱を発射! ブン!ガキィィィン! しかし、これは攻撃を予測していたワルキューレが防御 ワルキューレの装甲は少々凹んだが、発射された氷柱は砕かれ周囲に破片を撒き散らす (何でルイズの使い魔が僕に攻撃してくるんだぁぁぁぁ!?) と、錯乱するギーシュ。だが、次の瞬間これはチャンスだと思い直す それは―――――メイドを嬲った事を有耶無耶にするチャンス! 「今の行為・・・・・・僕への挑戦だと判断した!決闘だ!『ゼロ』の使い魔如きに舐められてはグラモン家の名が廃る!」 さっきの醜態を忘れて、良く言えば気障に、悪く言えば優雅に決めるギーシュ 「ヴェストリ広場で待っているぞ!」 とペットショップに伝えるとワルキューレを伴い、急いでその場を抜け出す。 ペットショップもそれに続こうとするが。 「あ、あの、ありがとうございます!」 シエスタの感謝の言葉。涙で潤んだ彼女の目にはペットショップは救いの手を差し伸べた勇敢なる騎士として映ったようだ。 勿論、ペットショップにはそんな気など一切無かった。下僕となるべき者の性能をテストしてみようとしただけである。 何か勘違いしているシエスタを一瞥しただけで済まし、ペットショップはギーシュの後を追って飛んで行った。 そして 「zzz・・・・・・もう・・・・・・食べられない・・・zzz」 ルイズは幸せそうにまだ寝ていた
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/216.html
「決闘なんか申し込んでどうすんのかしらね?」 「・・・・・・・・・・・・」 ペットショップとギーシュ、後その他諸々が出て行って閑散とした食堂 だが、キュルケとタバサはまだ優雅に昼食を進めていた 「トライアングル級かそれ以上の『水』の魔法を使えて空を飛べるんだから、ゴーレムなんて良い的にしかすぎないってのにさ」 「・・・・・・・・・・・・」 冷静に双方の実力差を判断するキュルケ。タバサは何も言わずに黙々と食事している 「唯一の手駒がゴーレムだけじゃ、負けは決まったようなもんなのにねぇ、それも分からないのかしら?」 あの鳥がギーシュ相手に手加減するとはとても思えない、それを考えて痛みがする頭を押さえるキュルケ キュルケの頭の中では、何度も何度もギーシュとペットショップの戦いのシミュレーションが行われたが、結果は体に無数の氷柱が突き刺さって死亡するギーシュの姿が浮かぶだけ まあ、ペットショップはギーシュを殺す気は無かったが、そんな事を知らないキュルケの頭の中ではギーシュの死亡は100%確定している あんまりギーシュと仲良くは無い、しかし、知り合いが死なれると夢見が悪い。 そこで溜息を一つ突くと、最後に残ったワインを口に流し込んで立ち上がった。 視線の先には幸せそうな顔で眠っているルイズ。 朝の死闘や教室での惨事を思い出すキュルケ、あの傍若無人な鳥もルイズの言う事には素直に従っていたのを見た 決闘を納められるのはペットショップのマスターであるルイズしか居ないだろう 「ルイズ!起きなさいルイズ!!」 故にルイズを起こしてヴェストリ広場に向かわせようとした、が。 「うーん・・・・・・zzz」 キュルケの大声は届かなかった、夢の世界から帰還できないルイズ。 それを見たキュルケは先程の溜息より更に大きい溜息を突くと、持っている杖を思いっきり振り被った そして躊躇無く振り下ろす――――杖の先にはルイズの頭が ボカッ! 突然魔法の才能が覚醒した私は、ライバルのキュルケと決闘した! だが、卑怯にもキュルケの奴はタバサと組んで私をコテンパンに叩きのめそうとする しかし!グレートな才能に目覚めて歴史に残るほどの魔法使いになった私相手には力不足も良い所! 「何か分からないけどとにかく凄い魔法をくらえッ!」 ドカーン! 「うーん」「ルイズ凄い」 土下座するような体勢で気絶しているキュルケと私の実力を素直に賞賛するタバサ 私は仁王立ちで高笑いしていた 幸せの絶頂―――――ボカッ! 「あ痛ッ!」 突然の痛みに意識が覚醒した。頭を押さえて悶える私 涙が出てきそうな目を開けると前方に呆れた顔のキュルケが見えた 何をするだーッ!朝の事も思い出した相乗効果でプッツン!その時私の中で決定的な何かが切れた! 即座に杖を振り上げて呪文を唱え、憎きキュルケを吹き飛ばそうとする! 「・・・・・・・・・・・・・」 だけど、私が魔法を使うより先に、何時の間にか背後に回っていたタバサが羽交い締めしてきた。はなせぇ! 暴れる私の前に宥めるようなキュルケの声 「アナタの使い魔だけど、ギーシュと決闘しに行っちゃったわよ?止めなくて良いの?」 へっ?ペットショップが?ギーシュと?なんで?ご飯抜いたから? 私の疑問に、床を拭いていたメイドが何故か立ち上がってこっちに向かって来・・・・・・うん?何か臭い。 「あの・・・・・・ペットショップさんのマスター様でしょうか」 ペットショップ・・・さん?何でさん付けなの?あのアホ鳥がまた何かやらかしたの?また何か弁償しなければならないの? 混乱し続けてまともに働かない私の頭、目でキュルケに助けを求める。 キュルケの簡潔な説明では、ギーシュに苛められてたその子をペットショップが助けて、ヴェストリ広場に決闘しに行ったらしい。 ・・・・・・「何よその目」 私の胡散臭いモノを見るような目に気付いたのか、鼻を鳴らして威嚇してくるキュルケ。 助けた?あいつが?一緒に過ごしてまだ2日も経ってないけど、ペットショップがそんな心を持ってるとはとても思えないのよね。 まあ、いいや。今の私には何を持ってしても最優先でやるべき事がある。 「とにかく分かったわキュルケ」 「なら早く行きなさい、アナタの足の長さじゃ急がないと間に合わないわよ?」 私の言葉に憎まれ口で返すキュルケ。よし、油断してるわね!今がチャンス! 自然な動作で杖を握り、私のできる最速の動きで杖を振って呪文を唱える! ドカァァン! 爆発が起きた。キュルケは吹っ飛んだかしら? 「ななな何すんのルイズ!?」 チィ・・・・・・寸前で回避したようね。煤は多少付いてるけど殆ど無傷だ 「何すんのって?勿論あんたを吹き飛ばすためじゃない!」 大体、ペットショップがギーシュと決闘?嘘ね! どうせ何も無い広場にのこのこ行った私を嘲笑うつもりね!? 無関係な平民のメイドまで用意して周到に備えたようだけど、このルイズ様を騙すのは100年早いわよ! もう一度呪文を唱えようとする。狙いは完璧!・・・・・・あっ!?逃げた! 「待てぇ!」 食堂から飛び出したキュルケと、それを追撃するルイズ その場にはポカンとしたシエスタと我関せずなタバサだけが残った。 所変わって、ここはヴェストリ広場。普段は人気のない場所だが、今は生徒達であふれ返っている。 中央に向かい合って立つのは少年と鳥、ギーシュとペットショップである 「諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げて決め、それに歓声が答える。が、その中には低い笑いと生暖かい視線も少しあった。 「『ゼロ』の使い魔相手にマジになってどーすんだギーシュ」 「飛ばれたらどうすんのよ?」 冷めた目でそれを見つめる少数の生徒。だが 基本的に刺激に飢えている子供達は殆ど全員が面白がってこの『決闘』と言う名の『演劇』を見ていた 「では、行くぞ!」 薔薇の造花を振って一気に数体のゴーレム『ワルキューレ』を生み出す ギーシュの戦法はこうだ。 まず、ゴーレムを生み出す、そしたらあの使い魔はゴーレムの攻撃を恐れて、空に飛びあがり遠距離から氷柱を発射してくるはず。 そしてあの使い魔がギーシュの手駒をゴーレムだけだと判断した油断は隙となるだろう。 それにドンピシャのタイミングで、『つい先日』取得した『魔法』石礫をカウンター気味にぶつけるのがギーシュの狙いだった。 しかも石礫を霧吹きのように広範囲に飛ばす事で、あの鳥がどれだけ速かろうとも、時を止めない限りは絶対に回避不可能! (あの鳥がどれだけ頭が良いか分からないけど、所詮は獣だ、恐れるに足らないさ) 見えてきた見えてきた!勝利への感覚が見えてきた!なギーシュ それに対して、ペットショップは 「キョキョキョ」 何と地面に立ったまま動かない! しかも翼を「掛かって来い」と言わんばかりの態度で振っている。 これにはギーシュもカチンと来た、ルイズの使い魔に舐められていると自覚する。 「やれえッ!ワルキューレ!」 円陣用の数体を残して、残りのワルキューレを突撃させるギーシュ ワルキューレとの距離が10メイルを切り5メイルを切り―――遂には2メイル手前まで接近されても微動だにしないペットショップ いや。 「キョキョ!」 一鳴き後、氷柱を瞬時に形成。 そのまま前進を続けるワルキューレの頭部に射出。 しかし、それを見たギーシュの顔に笑みが浮かび、ババッ!と大袈裟なポーズを決めて気障に叫ぶ。 「その動きは読めている!」 氷柱が発射される寸前に、ワルキューレは頭部を自身の腕で覆っていた。 ガンッ! 氷柱は砕けて破片を撒き散らしただけで、防御したワルキューレはほぼ無傷。 そしてペットショップに最も接近した一体がそのままの勢いで足を大きく振り―――― ゴガッ! 思い切り蹴飛ばされたペットショップは、ボールのように地面を跳ねた! バウンドして空中に跳ね上がったペットショップの体をもう一体のワルキューレが補足―――硬く握り締めた拳を叩き付ける! ドゴッ! これまた凄い音を立ててペットショップの体が地面と水平に飛ぶ! そのまま10メイル以上吹き飛ばされたペットショップは、木に衝突した後漸く、重力を思い出したかのよう地面に落下する。 時が止まったかのような静寂から数瞬―――広場を歓声が埋め尽くした。